概要
代表作もなく、ギリギリ食べている無名声優、各務悠貴。
売れない劇団員の彼女、美紗。
マンション隣室の陶芸家、夏芽。
落研時代の先輩で噺家、橘。
吹き替え声優や地味なナレーターとして食いつなぐ各務は、元は口下手のダウナー系。
大学時代に落語にふれ、書かれた言葉をなぞることで会話力を上げてきた。
心が伴わないのに付き合っている彼女・美紗とはギクシャクしているし、先輩の噺家・橘からは上っ面で中身がないと批判され――。
そんな時に出会った隣人・夏芽はガサツなのに軽やかな芸術家だった。
舞台演劇、吹き替え、アニメ、CM。
さまざまに活動し少しずつ認められながら、各務は自分自身の言葉を探す。
しかし一つの道を突き進ん
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!本当の言葉ってなんだろう。この物語がリアルと感じるのはなぜだろう。
この作品にえがかれている業界は、私とは縁遠いものです。
けれどそこに感じる熱量、気迫のようなものは、質量を持つような実在感をもってリアルを感じさせてくれます。
登場人物のあがき、もがき、必死にやれることをやってしがみついて、間違っているかもしれないけどそれでもすがりついて、自分なりに進もうとするその姿は、読んでいる自分を巻き込んでいきそうなほど強いうねりを感じます。
その静かで激しい力強さに惹かれます。
なんとなれば、嫉妬すらするほどに。
(この「嫉妬する」という表現は、私の評価軸としても、この作品に対する評価軸としても、おそらく最大級の評価になると思います)
この物語のリアルさは、単に作…続きを読む - ★★★ Excellent!!!悩みも痛みも芸の糧にして
本作は、仕事はそれなりにありつつ、世間的には無名の男性声優にスポットを当てたヒューマンドラマです。
声優とは物語や作品に関わる「クリエイティブ」なお仕事──と認識しがちだと思うのですが、主人公・各務の心境へのアプローチが「素人」目には新鮮で興味を惹かれました。各務氏は「他人の言葉をしゃべるだけの仕事」と卑下し、自身の「芸」とは何か、に迷い悩んでいるのです。
アニメ、吹替、演劇──仕事として割り当てられた台詞は滑らかに紡ぐいっぽうで、各務氏は「自分自身の言葉」を探します。微妙な関係の彼女への本心、尊敬する先輩への、相半ばする嫉妬と憧れ、偶然交流を始めた「お隣さん」への心の揺らぎ。それ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!主人公と共に自分の言葉を探す旅
ダウナー系主人公各務が自分の言葉を見付けていく物語。道はまだ半ばです。
自分探しなんて大人になりきれていない時代にするもの? きっと違う。みんな自分が何ものなのか探し続けている。読み終わった後、そんなことを考えました。
声優という、台詞を当てる仕事で食いつないでいる各務。彼を取り巻いているのは希薄な関係性ばかりで、彼女にさえ心を許せない。まるでモノクロの世界に住んでいるよう。
そんな毎日に飛び込んできた夏希。彼女によって世界は少しずつ彩りを取り戻していきます。そして、「他人の言葉」の中に自分の心を発見していくのです。
悩んでいるのは自分一人じゃない。みんな足掻きながら生きている。少し心…続きを読む - ★★★ Excellent!!!練って、成形して、掛けて。内を満たし、外を装い、自分を形作る
声優の各務は台詞をしゃべる。それは自分の心の伴っていない「嘘」であり、彼は演じていない時も「本当」で向き合うことが出来ない。そんな彼がじわりじわりと自身の心を見つけ、また、他人の心に触れる。
とにかく読んでいて心地よかったです。あっちからもこっちからも繰り出される「人間」にどっぷり浸かれました。この感覚をきちんと言い表す言葉を、どうやら私は持っていないようです。もどかしい。
人間の上っ面や深く、微妙な心の動きにも向けられる眼差し、それぞれが好き勝手言う人間味、突いてくる本質、琴線に引っ掛かるやり取り、スッと心に刺さるセリフ。
それは「味」とか「おかしみ」とか、もしかしたらそういうものなのか…続きを読む - ★★★ Excellent!!!確かに彼らはそこで生きている。呼吸する音が聴こえる
主人公の各務くんは、売れっ子というわけではないけど、副業しなきゃいけないほどでもない、絶妙な売れ具合の声優さん。
表情筋をあまり使用しないタイプの青年で、自分の中には自分の言葉などなく、いつも誰かの言葉をなぞっているだけだという思いに囚われています。
そんな各務くんなので、自分から積極的に誰かに深く関わっていくことは無く、基本は周辺の人間が起こすアクションによって物語は動いていきます。
この物語は、とにもかくにも人物描写が抜群にうまい。
どのキャラクターも立体的で、魅力的な光の部分と、濃い影の部分を併せ持っています。
途中、各務くんの周りの人間関係がこじれてくるのですが、読むうちにあま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!まるで身近な誰かの人生を覗いているような
声優として他人の言葉を話す各務。自分自身の言葉がないと思いながら活動を続ける彼が、少しずつ自分の言葉を見つけていくお話です。
私は声優のことも落語のことも全然分からないのですが、それでもこちらの作品、すんごく面白い。
人間の描写がとてもリアルで、読みながら「あーこういう人いるー!」となりますし、登場人物達の言動にも納得感があります。
だからこそ周囲との関わりによって主人公が徐々に変わっていく様は、時にもどかしさを感じつつも応援したくなります。そしてその周りの人達の身に起こる出来事の数々にまで一喜一憂させられるのです。
それからこちらの作品、タイトルがずるい(良い意味で
ある程度読み進めて…続きを読む