概要
殺せと言われた相手の、咀嚼回数を数えている。
潰れた定食屋の料理人・イツキが異世界に召喚された。勇者として。
剣は振れない。魔法は使えない。握力だけは一流。手には出刃包丁一本。
討伐を命じられた「災厄」は、別の世界から落ちてきた男だった。
山を三つ割る力を持ち、近づく者を拒み、何日も飯を食っていなかった。
殺しに行くんじゃない。飯を持っていくだけだ。
握り飯を出した。三分間、手をつけなかった。
名前を教えろと言った。渋々「レクト」と名乗った。それで取引成立。
粥を炊いた。出汁を引いた。四品を並べた。故郷の味を再現した。
この男の噛む回数を数えた。器の縁を指で拭う癖を見つけた。匙の速度が上がる瞬間を見逃さなかった。
——俺の手はもうこの男専用だ。
美味い飯を食わせるほど、この男は回復する。
回復するほど、世界が枯れていく。
俺の飯
剣は振れない。魔法は使えない。握力だけは一流。手には出刃包丁一本。
討伐を命じられた「災厄」は、別の世界から落ちてきた男だった。
山を三つ割る力を持ち、近づく者を拒み、何日も飯を食っていなかった。
殺しに行くんじゃない。飯を持っていくだけだ。
握り飯を出した。三分間、手をつけなかった。
名前を教えろと言った。渋々「レクト」と名乗った。それで取引成立。
粥を炊いた。出汁を引いた。四品を並べた。故郷の味を再現した。
この男の噛む回数を数えた。器の縁を指で拭う癖を見つけた。匙の速度が上がる瞬間を見逃さなかった。
——俺の手はもうこの男専用だ。
美味い飯を食わせるほど、この男は回復する。
回復するほど、世界が枯れていく。
俺の飯