雪女

真白透夜@山羊座文学

雪女

 貴女がこの世のものでないことは、見ての通りでした。女というものはすべからくそうなのかもしれません。薄皮に包まれた貴女は、血が通っていないかのようにひんやりとしていました。動く目は精密な機械のようでした。歯の形も良くできていると、ため息をついたものでした。

 男としか付き合ったことがありませんでしたから、そこまで繊細に触れなくてはいけないなどと、知らなかったのです。子どもならわかります。あんなもの、首やら腕やら、少し乱暴にしただけで折れてしまいます。成人の女であれば、つまり大人ですから、自分と大体同じだろうと思っていました。

 それがどうでしょう。貴女の手首は細く、指など、一晩でできた氷柱のようです。慎重に触れなければ、あっという間に砕けてしまいそうですね。

 貴女の身体で一番好きなのは、肩甲骨でした。天使の羽の出来損ないとして、一等美しかったと私は思います。さらにそこから伸びる腰についても、規則正しい背骨が導いて、膝を抱える貴女のシルエットは宇宙を抱いているようでした。

 後ろから抱きしめて、臍の辺りに手のひらを当てました。私には無い、子宮と言うものが、私と貴女の違いです。みな、此処から生まれたことを忘れます。貴女は覚えていますか? 貴女と母が臍の緒で繋がっていた日々のことを。

 乳房にもそっと手を置きました。世の中では、デフォルメされた女性のアニメーションが溢れていて、あのような肉の塊が前面についていることは不便ではないかといつも思っていました。

 親指で輪郭をなぞりました。貴女はじっとしていたので、それが嫌かどうかはわかりませんでした。


 体温が沈んできて、貴女と向き合うことにしました。貴女は髪も眉もまつ毛も唇も白いというのに、口の中だけは赤いのです。

 そうだったものですから、私は貴女が言ったことを聞き漏らしてしまいました。

 もう一度、と聞き返しましたが、貴女は目を逸らしただけで何も言いませんでした。


 これが、私と彼女が出会った夜の話です。それから私たちはよく雪山へ行きました。そして度々登山者を悪戯として氷漬けにしたものです。




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