「おめえ、エロ本持ってあの祠の前通ったんか……!?」なんて言われる因習村ホラー短編

くろねこどらごん

第1話

 いきなりだが、俺の住んでいる村は因習村だ。


 しょっぱなから何を言っているんだと思うかもしれないが、そうとしか思えないんだから仕方ない。

 なんせ村の外れには因習村で定番の祠があり、神様が祀られているという言い伝えがあるのだ。おまけに定期的にじいさんたちが集まって掃除をしたりなにかしら供物を捧げる儀式なんかもしていたりする。

 これで因習村だと思わないほうがむしろおかしい。


 さらに言えば、なにをしているのか聞いても、「お前にはまだ早い」「大人になったら分かる」の一点張り。

 おまけに「あの祠に近寄っちゃなんねえ」「下手に近付けば村に災いが訪れる」とまで脅してくる始末だ。


 怪しい。あまりにも怪しすぎる。

 

 これで「うーん、うちの村って普通だなー」「そっかー、まぁよくあるよね」なんて思うほど、俺も能天気じゃない。

 中学生ながら、うちの村ってヤバいのでは? と思わないほうがむしろおかしいというものだ。

 いくら現代社会から隔離されつつある辺境でも、常識くらいは一応身についているのである。


 とはいえ、実際に祠を調べてみようなんて考えたことはなかった。

 いや、考えたことはあっても行動に移そうとはしなかったといったほうが正しいか。

ホラー映画なら「あんだけ脅してくるとか中にナニがあるのか気になるし、祠壊してみようぜ!」なんてアホな行動に走るやつもいるが、それはそうしないと話が進まないからするのであって、わざわざ厄ネタに自分なら突っ込んでいくほど、俺は好奇心旺盛でもなければ猪突猛進な男でもなかった。


 まぁ大人たちがあんだけ言ってんだからヤバいのがあるんだろうなーくらいのノリでスルーしてたのだ。

 そしてその考えは正しいものであったと、俺は後に知ることになる。



 その日、俺は村の外に買い物に出かけていた。

 理由はエロ本を買うためだ。いやちょっと待てよと思う人もいるかもしれないが、中学生の男子なんてとっくにエロに目覚めているお年頃だ。

 自分だけのえっちな本が欲しいと思っても、なんら不思議なことじゃない。

 なんせうちは因習村だけあって、ロクにスマホの電波すら届かないド田舎なのだ。

 おまけにうちの親はケチなうえに機械に疎く、何度家にルーター設置してWi-Fi飛ばしてくれよと頼んでまるで言うことを聞いてくれやしない。

 これではオカズの収集すら絶望的だ。通販で買おうにも俺は未成年だから着払いしか出来ないし、それをやると両親にエロ本を買ったことがバレる恐れがあった。それだけは避けなくてならない。


 そう考えた末の自力でのエロ本購入というわけだ。

 俺の見た目は年相応の中学生であるため苦労はしたが、なんだかんだ購入に成功し、意気揚々と村に戻ってきたというわけである。


「あー、早く読みてぇなー。これで当分は困らないだろうしよくやったわ俺」


 つい自画自賛するくらいに俺は浮かれていた。

 浮かれすぎてていつもなら使わない道にハンドルを切るくらいには浮かれていた。

 寂れた村の中でも、ことさら寂れた裏道。普段はある理由から決して通らないのだが、家に帰るのはこちらの方が早かったのだ。

 そして普段通らないその理由は、勿論……。


「ふんふふんふーん」


——……ていけ


「えっ」


 鼻歌を歌っている最中、いきなり聞こえてきた声に、俺は思わずブレーキをかけて止まってしまう。

気のせいか? そう思い辺りを見回すのだが、誰もいない。視界に入るものといえば——村で祀られている、小さな祠だけ。


「…………」


ごくり、と唾を飲み込んでしまったのは、緊張からだろうか。

もしくは——浮かんできた嫌な想像を振り払うように、俺は敢えて大きな声を出していた。


「な、なんだよ!? 誰かいるのか?」


——……おいていけ


「ひっ」


 俺の叫びに呼応するかのように聞こえてきたのは、地の底から這い出てきたかのような、重苦しい声だった。

 

——おいていけ。おいていけ……


 何度も何度も。その声は同じ言葉を繰り返す。

 まるで壊れたラジオのようだ。得体の知れないナニカがここにいる。

 そう直感した。急いでこの場から離れないといけないとも。

 だけど、動けない。まるで足が縫い付けられたかのように地面から離れないのだ。

 かろうじて動かせそうなのは、恐怖に染まった頭と口くらいのものだ。


——おいていけ。おいて……。


「な、なにをだよ。なにを置いていけって言うんだよ!?」


 俺は声を張り上げた。無駄だと分かっていても、そうしないと恐怖に押し潰されてしまいそうだった。


——おいていけ……おいていけ……


「だから、なにを……」


 要領を得ないことばかり繰り返す声に苛立ち、もう一度聞き返そうとした。その時。



——その持っているエロ本、おいていけ……



「……………………へ?」


 間が抜けた声を出してしまったのは、果たして俺が悪かったのだろうか。

 エロ本。今、エロ本と言ったのか? なんで? 場違いじゃない? 聞き間違いか?


——エロ本、おいていけ。買ったばかりのエロ本。未使用の新刊。我も欲しい……


「なにいってんだアンタ。正気か?」


 思わず辛辣なツッコミを入れてしまったのは、先ほどまであった重苦しい空気が霧散したからだろうか。

 それほどエロ本というワードには、場の空気をぶち壊すパワーがあったのだ。間違いなく。


——正気だ。我は正気だ……故に、エロ本を渡せ……さもなくば、この村に災いが降りかかることだろう……


「エロ本が原因で災いが!? え、なんで!?」


 ちょっとげんなりしつつあった中で、いきなり出てきた災いとかいうパワーワードに思わずビビる。

 エロ本も大概だったが、災いはちょっと洒落にならない。

 一瞬忘れかけていたが、この村は因習村なのだ。元々厄ネタがあったのは当の昔に知っていたので、さすがにこれは無視出来ない。

 

——だって我、欲しい。エロ本、欲しい……


「…………」


 と思ったが、やっぱり無視して帰ろう。

 もうさっきまでの恐怖はどこにもないため、足も普通に動くしな。よいしょっと。ギーコギーコ。


——待て。エロ本おいていけ。いいのか、本当にいいのか。村に災いが降りかかるぞ。それでもいいのか。待て! エロ本。我のエロ本!


 うるせえな。お前のじゃねえ。俺のだよ。

 我ながら下手くそな五七五を脳内で作りながら、俺は祠の声を無視して家へと帰るのだった。



 


「おいおめえ。エロ本持って、あの祠の前通ったんか……!?」


「  」


 そして帰宅して数十分後。

 ウキウキ気分で部屋に戻り、パンツを脱ごうとしてところにじいちゃんが部屋に乱入してきた。


「じ、じいちゃん! なんだよいきなり! ノックくらいしろよ!」


「おっとすまねえ。だがその感じだとおめえ、やっぱりエロ本持って祠の前通ったみたいだな……」


「二度も言わなくていいよじいちゃん。それ羞恥プレイだよ」


 いきなり部屋に入ってきたじいちゃんを睨みつつパンツを履き直していると、じいちゃんがずかずかと部屋に入ってくる。


「おい、じいちゃん! やめろよ、くんな! 俺にだってプライバシーってもんがだな」


「分かってる。だが、今は一刻を争う事態なんだ」


 真剣な顔をしつつ、床に置いていたエロ本を手に取るじいちゃん。

 それを見て、俺は大いに慌てる。


「お、おい! だからやめろよじいちゃん! それは俺の……」


「気持ちは分かる。だがな、これはお前のためでもあるんだ。早くこれを、祠にいる神様に捧げなきゃなんねぇ」


「なんでだよ!? エロ本だぞ!? んなもん別にいいだろ!? あんな胡散臭い神様なんかどうだって……」


「よくねえんだよ。その様子だと神様の声も聞いたようだが、神様は言ってたろ? そのエロ本渡さないと、村に災いが降りかかるってな」


 じいちゃんの声の真面目さに、俺は思わず唾を飲み込む。


「た、確かに言ってたけど……え、あれ冗談なんじゃ……」


「冗談なんかじゃねえ。いいか、あの神様にはな。それが出来るだけの力があるんだ。ワシの若い頃も、そしてお前の親父も、その災いを身をもって実感している。だからお前には同じ轍を踏んで欲しくなかったんだが……血は争えねえってことか……」


 歯噛みするように呟くじいちゃん。

 顔には悔しさがにじんでいて、じいちゃんの言っていることが嘘ではないことが否が応でも分からされる。


「じいちゃん……俺……もしかして取返しのつかないことを……」


「何も言うな。お前は悪くねえ。今から急いでコイツを捧げにいけばまだ間に合……」


——我は怒った。災いの時、来たれり……


 その声が聞こえてきたのは突然だった。


「これ、あの祠の……」


「ぐっ、畜生。間に合わなかったか……!」


 悔しそうに呻くじいちゃん。これから起こることが分かっているのか、じいちゃんの顔がみるみるうちに青ざめていく。


——この村の中に、我への供物を捧げなかったものがいる。故に、これは誅伐だ。この村にいる全ての者に、責任を取ってもらう


「ま、待てよ! 悪いことをしたのはエロ本を置いていかなかった俺だけだろ!? なんで村の皆を巻き込もうとするんだよ!? やめろよっ!」


——では始めよう。我の怒り、その身で知るがいい


 いくら俺が叫んでも、その声は止まらなかった。

 災いなんて、絶対ロクなものじゃない。よくよく考えれば、エロ本を置いていくように言っていた時点で気付くべきだったんだ。

 そんなものを要求してくる神様が、まともなはずがないってことに。


「やめろっ、おい、やめろおおおおおおおおおおおお!!!」


 今更後悔してももう遅い。

 だけど、災いが起きることを黙って見過ごすことなんて出来ない。届かないと分かっていても、俺はひたすら声を張り上げて神を止めようと——

 


——本日、〇×家の〇〇くんがエロ本を購入して帰宅しました



「…………はえ?」


 したのだが。続けて聞こえてきたのは、災いとはほど遠い内容のものだった。


——中学生にも関わらず、その本の内容はディープで、どうやら表紙の逆バニーに惹かれた模様。おまけに年上が趣味なのか、本の中身はおねショタ筆おろしものが多くあり……


 え、なにこれ。

 なんで俺の性癖とか買った本の内容読み上げてるの? ええ……?


「ぐっ、遅かったか……」


 悔しそうに拳を床に叩きつけるじいちゃん。その顔は本当に悔しそうだったが、俺としてはどちらかというと困惑が勝っていたため、そのシリアスさにはついていけてない。


「あのーじいちゃん。なにこれ。これが災いなん?」


 そのせいか、俺も妙にとぼけた口調で尋ねてしまう。

 だってこれが災いなら、拍子抜けもいいとこだし。そう思っていると……


「お、おめえ。平気なのか!? マジか!? 嘘だろ!?」


「いや、マジかって言われても。だって別に村が滅びるわけでもなさそうっていうか……」


!?」


 じいちゃんの言葉を聞いて、俺は全身がフリーズする。


「……………………え?」


——特にエグいのが、主人公がお姉さんのことをママと呼んでしまうシーンであり、そこを気に入ったのが購入の決め手となり……


「だから、おめえの性癖が今、村中に暴露されてるって言ってんだ!? おめえ、当分村の中歩けねえぞ!」


「は、はあああああああああああああああああああああああ!!??」


 ここにきて、俺は今日一番の大声を出し、絶叫することになる。


「ちょっと待てよじいちゃん! 災いってもっとこう、地震とか火事とか、災害的なあれじゃないの!?」


「この狭めえ村でんな局所的なこと起きるわけねえだろ! そんなんだったらもうとっくに儂らはこの土地離れてらぁっ!」


「た、確かに……」


 言われてみればその通りだ。

 たかが村で起きる災いなんて冷静に考えればたかが知れている。

 

「祠の神様によって性癖をバラされたもんはこれまで何度も村八分にあってきた……儂も好きだったミヨちゃんから軽蔑の目を向けられて……ううぅぅ」


「な、泣くなよじいちゃん。俺まで悲しくなるだろ……」


 辛い過去を思い出したのか、さめざめと涙を流し始めたじいちゃんの背中を撫でていると、


 ピコン


「ん? メッセージか?」


 スマホにどうやらメッセージが届いたらしい。

 なんだろうと思いながら見てみると……。


——お前の渾名、明日からおねショタマンに決定な(笑)


「  」


 確かに神様の声は、村中に届いていたらしい。

 その結果どういう扱いを受けることになるのか。俺はこの時ようやく身をもって実感したのだった。




……これは余談だが、この村で祀られている祀られている神様はどうやら未だに童貞であるらしく、二次元でしか興奮出来ない性質なのだそうだ。


 昔は村の若い女性を生贄として差し出そうとしたこともあったらしいが、


——え、生身の女の子とか嫌だ……なんかその、ばっちいし……


 なんてのたまうくらいには拗らせた神様であったらしい。

 そんな神様であったため、供物として18禁の本を常に所望しており、毎月エロ本を捧げるのがこの村の因習なのだとか。

そして供物を捧げるのを怠ると、村の男の性癖を村中に暴露するという暴挙に出るというのが、この村の災いであるらしい。

この話を改めてじいちゃんからされたとき、(器ちっちゃ!)と思った俺のことを責められる人は誰もいないと思う。


さらにさらにこれも余談だが、俺はあの後しばらく部屋に引きこもることになったのは言うまでもないだろう。

そして村の男たちに混ざりつつエロ本を捧げるようになり、いつか復讐することを内心胸に誓っているのはまた別の話である。


結論。因習村はクソ。終わり。

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