目目連
二ノ前はじめ@ninomaehajime
目目連
誰も彼も目が欠けていた。
町人の多くは片方の目を失っており、顔面に黒い
父母とてそうだった。左右の違いはあれど、片目が潰れていた。父は左官職人で、母は家事を切り盛りし、時には古着を
「おっかさん、目ん玉が一つなくて見えるの」
子供の
「この子ったら、ちゃんとごらんよ。二つあるでしょう?」
優しい笑みを
長屋の裏路地にある水道井戸まで駆けた。杉材で組まれた
自分の方がおかしいのかもしれない。
友達と寄り集まって目隠し鬼で遊んだ。鬼となった子が手拭いで目を覆い隠して、声のした方向へと歩いていく。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
手拍子に合わせて、他の子供たちが
「お前、見えてるだろ」
見れば、鬼役の子の手拭いが少し斜めがけになり、片目が覗いていた。悪びれず、笑いながら目隠しを取り払う。隠された方の目は、やはり
両の
何年かして、弟が生まれた。母親の腕に抱かれた彼は、まだ開いていない両の
この子もそうなるのだろうか。その泣き顔を眺めながら、哀れに思った。
ごく
岡場所に入りこんだことがある。親に近寄るなと言われていた場所だった。女郎屋が並び、格子窓の奥で遊女が道行く男性に呼びかけていた。彼らは値踏みをして、気に入った相手がいる店へと入っていく。
さらに踏みこむと、見すぼらしい
その
まだ子供だった。目が欠ける理由がわからなかった。町を襲った大火によって、ようやくその意味を知ることになる。
火の見櫓の
大火に照らされて、荒磯と菊柄の振袖姿をした女性を見た。火事場には相応しくない、
町を見舞った火事は
夜空を仰ぐ。満天の星空が広がっているはずだった。広大な天に散りばめられていたのは、無数の瞳だった。血走って、
ああ、皆の目は其処にあったんだ。
頬を
「今さら、遅いよ」
この手の下で、自分の両目は抜け落ちていないだろうか。そう思った。
目目連 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime
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