片恋 (柿崎拓都side)
子どもらしくない。
物心ついた頃から、そう言われることが多かった。
無邪気な笑顔、素直さ、積極性、好奇心、チャレンジ精神。
どれも俺とは程遠い言葉。
仏頂面、斜に構えて、いつも逃げ腰。
それが俺だと思っているし、別にだからどうだと言うんだと、開き直っているから質が悪いってこともわかってはいる。
そんな俺の事を、俺の母親よりまめまめしく面倒をみてくれたのが礼央だ。
最初は面倒くさかった。頼むから放って置いてくれと思っていた。
でも、彼は俺の冷ややかな目にも無言着で、俺が邪険にしても怒るでもなく、恩を着せるでもなく。ただ淡々と必要事項を差し出してくる。
そんな彼が不思議でしょうがなかった。
なんでこいつは俺に構うんだ?
俺のこと好きなのかよ。
おえっ、きっしょ!
そうやって避けようとも思ったけど、なんだかんだ言って、俺は礼央に世話を焼かれることが嫌いでは無かったんだ。
いや、寧ろ嬉しかった。
どうせなら、こき使ってやる。
いつの間にか、彼なしでは居られないくらい甘えまくっていたことを悟ったのは、礼央の片恋に気付いた時だった。
バイト先の女の子。
同じ学部の後輩。
確かに、可愛い、かな。
真っ直ぐで裏表が無くて……礼央と似ているかも。
お似合いだと思う。
だけど、何故か素直に応援できない。
一体何に引っかかっているのか……
自分でもよくわからなかった。
だから、初めて自分から礼央を観察してみたんだ。
今までは俺が余所見をしていても、礼央が俺を見つけて手を引いてくれていたから、俺から礼央を見ることなんか無かった。
そう、うざいくらいに礼央が俺に構ってくれたから……礼央の目を探す必要なんて無かったのに。
今、礼央の視線は尾上にばかり吸い寄せられている―――
ズキンと胸が疼いた。
この気持ちは、なんだ!?
お気に入りのおもちゃを取り上げられた時のような、いや、違う。
もっと空虚で、もっと黒くて、もっと……甘くて酸っぱいような……この気持ちを、言葉にしてはいけない。
名前をつけてはいけない。
そんな気がして、俺は積極的に礼央の恋を応援することにしたんだ。
今までの借りは返したぞって、いや、お前に貸しを作ったからなと言い切れるように。
綺麗さっぱり、後腐れなく別れられるようにしておきたいからな。
クリスマスイブの直前、インフルになったとわかった時、これは上手く使えると思った。
ぐずぐずと足踏みする礼央に喝を入れて、告白の舞台を、俺がお膳立てしてやる!
俺の目論見は見事に成功したらしい。
バイトから帰ってきた礼央の顔を見たらピンときたよ。
告白大成功ってな。
良かった……
本当に、心からそう思ったんだ。
それなのに……ぎゅっと胸が痛むんだ。
そうだな。これからは前みたく頻繁に礼央には会えなくなるよな。尾上とのデートに忙しくなるだろうし。
自分のこと、ちゃんとできるようにならねぇとな。
いや、寧ろせいせいするよな。あいつに叱られながら掃除する苦行も無くなるだろうし、行きたくもねぇところを連れ回される心配も無くなったし。
なのに、なぜ、こんなに苦しいんだろうな。
彼が用意してくれたお粥を食べて、薬を飲んで布団に潜り込んだ。
ふわっと、礼央の残り香に泣きたくなった。
fin.
クリスマスイブは恋よりバイトです! 涼月 @piyotama
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