三太蔵人

やざき わかば

三太蔵人

 サンタクロースがケガをした。


 これではプレゼントを配れない。世界中の子供達ががっかりしてしまう。悩んだトナカイは、サンタの代わりを探し出し、今年だけでも手伝ってもらおうと考えた。


 結果、極東の島国で暮らしていた江戸の酒造り職人、三太に頼むことにしたトナカイ。驚く三太にかくかくしかじか、事情を話す。


「へぇ、外つ国のお祭りかい。しかし、なんで俺なんでぇ。興味はあるが、今この国は外国の人間を締め出してる最中で、危険じゃねぇか」


 トナカイは三太に、なぜ選ばれたのかをとつとつと話す。


「失礼ですが、三太さんは蔵人ですよね」

「おうよ。俺の作る酒は、自分で言うのもなんだが、なかなかの絶品だぜ」


 三太が鼻を鳴らす。


「この国では、酒職人を蔵人(くろうど)と呼ぶと聞きました」

「おう、そのとおりだ」

「今回、貴方に代役をお願いしたい人の名前が、サンタクロースと呼ばれているんです」

「変な名前だな」

「三太さんは蔵人。三太は蔵人。三太蔵人。サンタクロード。サンタクロース」

「なんでぇ、名前のダジャレかよ」


 不満そうな三太にトナカイがフォローを入れる。


「いえいえ。その他にも、いろいろ聞き込みをいたしました。三太さんは気風が良くて面倒見が良い、腕の立つ職人だとか。そして名前がサンタクロースに似ている」

「やっぱり名前じゃねぇか」


 選定の仕方に不満があるとは言え、なんだかんだ面白そうだったのでその申し出を快く受けた三太。


 さっそく、トナカイのソリに乗って全世界を駆け回る。


「へぇ、こいつぁいいや。長屋の連中にうまい土産話が出来たってもんだ」

「ではここらへんでプレゼントを配りましょう。配り方はさっき説明した通りです」

「おう。子供の部屋に忍び込んで、プレゼントを置いてこりゃいいんだな」

「壁に靴下がかかっているはずです。そこに入れてください」

「靴下?」


 三太は靴下を知らなかった。それもそのはず。日本では水戸光圀が靴下を初めて履いた人物だと言われているが、まだ生産などはされていなかった。


「そちらにも、足袋というものがあるでしょう? そのようなものだと思ってもらえれば」

「なるほど。わかった、行ってくる」


 そして、三太はいろいろな家庭の子供達にプレゼントを配ってまわった。これが思いの外楽しく、何より『子供達に贈り物をして喜んでもらう』というこのお祭りを、心底気に入ってしまった。


 夜が白むころ。三太はノルマを配り終わり、日本に戻ってきた。


「三太さん、今日はありがとうございました。おかげで助かりました。後日、改めてお礼に伺います」

「まぁ気にすんな、俺も楽しませてもらった。しかし、夜中に子供達への贈り物を、靴下に入れてやるってのは、面白いお祭りだ。朝起きたら子供は大喜びだろう」

「それはもう。一年の締めくくりにもふさわしい催し物だと思います」

「俺の国でも、出来ねぇかな。足袋に入れるわけにもいかねぇが、なにか靴下に代わるものでも用意してさ」

「盛り上がるかと思いますが、大丈夫なのですか? 鎖国中でしょう?」


「大丈夫さ。大人どもには袖の下でも渡しときゃいいんだ」

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三太蔵人 やざき わかば @wakaba_fight

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