『店舗名継続使用に関する報告』
文責不明
『店舗名継続に関する報告』
息子が詐欺に遭い、借金を背負ってしまった。
そう聞かされていた。
何度も、そうだと思おうとした。
よく出来た息子で、親孝行もしてくれた。
だから疑わなかった。
自分の店を売れば、借金は返済できると言われた。
騙された。
いや、最初から、騙す側だった。
息子も、グルだった。
この店は、大型ショッピングモール建設予定地に建っていた。
何度も不動産屋が来たが、断っていた。
この地域で長年続いた店を金の話ひとつで手放す気はなかった。
私たち夫婦にとって、この店は生活であり、誇りであり、逃げ場だった。
店は跡形もなく壊された。
壊すのは、あんなにも簡単だった。
そこにショッピングモールが建った。
その中に、私たちの店と同じ名前の店が出来た。
経営者は息子だった。
売りにしていた料理は、湯煎して盛り付けただけのものだった。
包丁の音もしない厨房でうちの味を名乗っていた。
他の料理は、冷凍食品だった。
――息子が詐欺に遭い、借金を背負ってしまった。
そう、そう思い込もうとしていただけだった。
あの時、不動産屋が名刺を差し出した時、
息子は、その名前を知っていた。
初めて見るはずの相手をもう知っている目をしていた。
この店は、大型ショッピングモール建設予定地に建っていた。
何度も不動産屋が来たが、断っていた。
何度も、「うちは売らない」と言った。
私たち夫婦にとって、この店はなくてはならないものだった。
店は跡形もなく壊された。
いや、壊されたんじゃない。
壊しても、いいことにされた。
そこに、ショッピングモールが建った。
その中に、私たちの店と同じ名前の店が出来た。
看板の書体まで、同じだった。
真似たのは名前だけじゃなかった。
経営者は、息子だった。
違う。
そう書類には、そう書いてあっただけだ。
売りにしていた料理は、湯煎して盛り付けただけのものだった。
他の料理は、冷凍食品だった。
妻は、店を失った後に入院し、肺炎で亡くなった。
その時、まだ店は壊されていなかったはずだった。
怒鳴ることも出来ず、責めることも出来ず、
弱っていく妻を見守ることしか出来なかった。
自分が、どうしようもなく、
不甲斐なかった。
【報告書】
ショッピングモール運営会社
施設管理部・内部資料
文書管理番号:施管第〇一九号
作成日:2016年3月18日
本報告書は、当該施設に関する事案の経過整理および今後の運営判断に資するための内部資料である。
【対象施設】
埼玉県〇〇市 商業施設
旧個人経営料理店跡地
【関係者】
斎藤 正(70歳)
斎藤 幸恵(72歳)
【概要】
当該地において長年営業していた
個人経営料理店は、土地売却に伴い閉店。
その後、同一敷地内にショッピングモールが建設され、同一名称の料理店が出店した。
店舗名称および外観意匠については、法的問題は確認されていない。
【経過】
2015年、当該モール内飲食店にて複数件の食中毒事案が発生。
提供料理はパウチ食品および冷凍食品のみであり、外部要因による間接的感染の可能性が指摘された。
その後も異物混入等の申告が相次ぎ、現在、当該店舗は営業停止中である。
【補足事項】
当該店舗の経営に関与していた元個人経営者の実子は所在不明。
賃金未払いを理由とする訴訟が複数件提起されている。
また、「閉店したはずの元店主を見た」「夜間、無人の厨房から調理音がする」等の問い合わせが寄せられているが、事実確認には至っていない。
【対応方針】
風評被害を考慮し、本件に関する対外的説明は行わない。当該区画については契約更新を停止の上、法的対応を含め慎重に検討を進める。
以上
『店舗名継続使用に関する報告』 文責不明 @kurenainosyake
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