この星に一人切り

真花

この星に一人切り

 空が青い理由が分からなくても空の下で生きるのが当たり前なんだから、生きろよ、って言った男がいたっけ。その時は一応彼氏だったかな。どうだったか。男なんて結局セックスで釣れたから、簡単だったし、もう彼氏だったかそうじゃなかったか、どっちか曖昧。それで釣った後は、生きるのがつらいって訴えて、自殺未遂をして見せればもう右往左往して、私のために尽くすようになる。セックスと自殺で挟むイメージ。振り回し放題。そうやっている間だけはどうでもよくなれる。男が尽くしたのをパアにするのを繰り返すんだ。事態に窮したら自殺未遂をすればいい。それからセックスをする。それで全部おじゃんになる。

 でも男はその内に言うんだ。全部徒労だった。お前にはもう付き合えない、って。私は自殺を仄めかしたり、実際にやったりするけど、そこまで行くともう男はこっちを向くことはない。そうやって男は私の前から消えて行く。私は取り残されるけど、そこで自殺はしない。道具にならない自殺はしない。それに、すぐに次の男がやって来る。若くて美しい女なんだ。特権だよ。男に困ることなんてない。本当に男は愚かだ。だから次の男にも同じことをする。だって、どうでもよくなれるのはその間だけなんだ。利用するだけ利用しなくちゃいけない。私には最強の道具が二つ、自殺とセックスがあるのだから。

 例えば、男が本当に私を愛したとしても私のすることは変わらない。愛なんかじゃ私は満足出来ない。と言うか、愛って何? 私のために尽くすことと何か違いがあるの? 親の愛だってよく分からない。虐待はされなかったけど、生活に最低限の関わりしかなかった。父親は常に不在だった。十七でウリを始めて、半年で親にバレてからは私のことを無視するようになって、私は男の家に転がり込んで、それから実質縁を切られている。弟には、穢らわしいから二度と連絡するな、って吐き捨てるように言われた。実際していない。それから男の家を転々として、ウリもした。

 男は常にいて、私がコントロールしていたけど、毎回同じ結末に至る。徒労だって。そりやそうだよ。そうなるようにしているんだもん。お前の徒労が大好物なんだよ。分かる? 分からないか。そうだよな。生き物としての基盤が違うんだから。多分、私は人間未満でしかない。人間によく似た別の生き物だ。寄生しているって説もある。

 私が自殺未遂をして生還したときの男の顔は安堵が半分、狼狽が半分で、もし私が本当に死んだらその半々が安堵と解放になることは分かっている。だけどそんなことはさせない。ちゃんと死なない範囲でやっている。自殺は道具だ。それからご褒美のセックス。ウリをして、道具にしてからセックスの質が変わった。気持ちはいいよ。でも、乾いた感じがする。満足には繋がらない。いつも。男はどうなんだろうね。金払ったら気持ちよさが変わるのかな。知らない。どうでもいい。大事なのはそれで男が釣れて、支配する道具になることの方だ。

 もし私が男に生まれたらこうはならなかったのかも知れない。でも現実に私は女で、それを利用して生存している。ほんと、生存って感じ。生きてはいない。次から次に男を乗り換えて、生存している。

 していた。

 最後の男が去ってから、次が引っかからなくなった。私は若くなくなって、美しくもなくなって、それでも女のままだけど、価値が暴落したようだ。それを補うようなものは私には一切ない。その兆候は数年前から出ていた。それでも男は釣れてはいた。それがとうとう「間」が空いた。ちょっとのことだとタカを括っていたけど、次が来ないまま日々が流れた。私は私に関わる全ての男に徒労を押し付けて、見捨てられた。よく、見捨てられ不安とか言うけどあれは嘘だよ。見捨てられることに対しての不安なんてない。そのために非常な努力なんてする訳ない。外から見るとそう見えるだけ。私がやっているのは自殺未遂とセックスでのコントロールだけ。いや違うか。後は、平気で嘘をつきます。と言うか嘘だらけ。理由はシンプル。その方が振り回せるから。嫌いなんだよ、真実だけでやる方がいい人生になるとか言う考え方。目的に合った行動をしましょう。でも、そのコントロールをする相手がいなくなってしまった。友達? とっくに見限られている。男も家族も友達も私を見切った今は、ウリの相手くらいしか会話がない。それだって空虚なものだ。男も会話なんて求めてない。私に関係する人間が、全部私から離れている。誰も私に関係しない。むしろ忌避する。結果として、まるで私はこの星に一人切りで生存しているみたいだ。


 取り調べ室に入ってから女はずっと黙っていた。刑事が問う。

「どうして殺したんだ」

 女は刑事の顔を薄く覗いた。

「関係が欲しかった」


(了)

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