【短編】堕落した愛

和泉歌夜(いづみかや)

本編

 堕落した愛は罪なのでしょうか。


 私、三園みそのなぎさはそうは思いません。こう見えても三度ほど男性とお付き合いをしていました。一人は小さい頃からの幼馴染で互いの秘密を知る中でした。が、中学を境に変わりました。


 彼のことを仮にKとでも呼んでおきましょうか。Kは私を家に誘うと、甘い口付けをしました。そして、みさおを奪っていったのです。


 かなりウブで暴力的でしたが、私は痛くも怖くもありませんでした。ただ血が流れるように全身に奇妙な快楽を感じたのを覚えております。


 それから私はKとは何度も交わしました。母にKの家で勉強すると言って交わしたこともありました。


 このまま私は彼の子供を産んで、幸せな家庭を築くのだと思っていました。


 ですが、Kは逃げました。私の妊娠が発覚した直後に。


 Kは家庭の事情で転校しました。何度もKに連絡したのですが、ブロックされました。


 私は怖くなってオーバードーズをしてしまいました。その後のことは察しがつくことでしょう。もちろん宿した我が子は死にました。


 毎日が地獄でした。生きる希望も湧かず、ただ亡霊のように過ごしました。全ての人間が私に『堕落』という眼差しを向けたような心地で息苦しかったです。


 私はたまらなくなり、ビルの屋上から飛び降りようとしました。ですが、偶然に居合わせた男性に引き止められました。それが二人目の彼……Iとでも呼んでおきましょう。


 Iは私より十歳も離れていました。が、彼は年の差を感じさせないほど気さくに話しかけてくれました。私に何度もこの先にいいことがあると言って慰めてくれました。私はIに心と身体を許して死ぬのをやめました。


 しばらくはIの家でお世話になりました。マンションの一室での奇妙な生活はとても楽しかったです。外には出してくれませんでしたが、Iは私に惜しみない愛を捧げてくれました。


 昼間は一人でいることが多いですが、夜になると必ず私の所に寄って行って愛撫をしてくれました。その時に奇妙なドリンクを飲ませてくれました。未だに味は分かりませんが、気分が高揚してこの世の辛さを忘れてくれました。


 明け方になると彼はまた外に出かけ、夜になって戻り私と……といった生活が何週間か続きました。私はこの生活が幸せでした。Iに愛撫されるだけの人生が。


 しかし、突然終わりました。Iは捕まってしまいました。罪状はお察しがつくと思います。


 私は未成年ということもあり、情状酌量の余地で両親の元へ帰されました。両親は私に暴言を浴びせるようなことはせず、ただ泣いていました。私はあまり記憶がないですが、白いベッドで半年ぐらい寝かされたのを覚えています。


 どれくらいの月日が経ったが分かりませんが、私はようやく外に出られるような身体になりました。勉強を頑張ってようやく高校に進学し、それからは穏やかに大学に出ることができました。


 その大学で出会ったのが三人目の彼です。Sとでも呼んでおきましょう。


 Sはサークルで出会いました。そのサークルはいわゆる飲むだけの『飲みサー』で、サークルにいた先輩達が私にお酒を強要しました。その時に助けていただいたのがSでした。


 私とSはあっという間に距離を縮めていきました。久しぶりの男体はたまらないほどの快楽でした。Sはすっかり私に夢中になり、片時も側から離れなくなっていました。


 私もSのことを夢中になり、授業中でも構わずに互いに連絡を取り合うようになりました。もちろん愛を交わすことも欠かせません。Iほどではありませんが、Sは性欲旺盛で私に情熱的な愛を注いでくれました。


 その結果、私は二回目の妊娠することができたのです。今回はSは逃げずに私に付きっきりでした。Sは私にプロポーズをしてくれました。返事はもちろんイエスです。


 子供が生まれた時は幸せの絶頂でした。彼と結婚式を挙げたのも幸せな時間の一部でした。


 ですが、夢は突然覚めました。Sは豹変したのです。


 私に暴力を振るうようになったのです。理由はおそらく仕事上のストレスでしょう。私だけではありません。我が子にも……無力で小さな可愛らしい命にまで手を出すようになったのです。


 私は必死に我が子を守ろうとしました。ですが、Sは強く私なんか羽虫と同じで無力でした。


 どうにかして我が子を守ろうと考えた結果、ある方法を思いつきました。この日、私はいつもより化粧を多くしてSを誘いました。私の色気にSはやられたのでしょうか、あっさりと受け入れてくれました。


 彼が喜びそうなことをとことん攻め尽くした後、私は彼の上にまたがって首を絞めました。Sはもちろん抵抗しました。ですが、精力剤と偽って飲ませた薬が効いたのでしょうか、彼の力は弱まり息の根を止めることができました。


 Sが死んだと分かった途端、私は腕に羽根が生えたように喜びました。しかし、それが悲劇となりました。我が子を踏み潰してしまったのです。


 すぐに病院に向かいましたが、手遅れでした。Sだけではなく我が子まで失ってしまったのです。


 私は警察に自首しようか、踏み切りに向かおうか迷いましたが、前者を選びました。


 そして、今に至ります。


 こうして話してみると、何とも落ちぶれた人生だなと思っています。ですが、後悔はしていません。私はあの時、あの瞬間はどういう形であれ、愛で満ち溢れていましたから。


 私は愛されていました。私は誰よりも愛された人……あなたもそう思いますよね? 刑事さん。


 えぇ、そう言ってくれると信じていました。あなたなら私の気持ちが分かってくれると信じていました。


 あぁ、涙を拭いてくださるんですね。ありがとうございます……あぁ、なんて素敵な目をしているのでしょう。その眼差しで数々の被害者を慰めてくれたんですね。


 あぁ、あなたみたいな人に出会えていたら、私の人生はもっと幸せに包まれていたのでしょうか。数々の過ちを犯さずに済んだのでしょうか。あなたの声を聞く度にそう思ってしまいます。


 えぇ、えぇ、刑事さん。時間なんですね。分かりました。


 また明日もいらしてください。今度はあなたの話を聞きたいです。


 えぇ、約束ですよ。ふふふ……。

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【短編】堕落した愛 和泉歌夜(いづみかや) @mayonakanouta

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