第2話始まりの光が差し込む教室で
僕たちは相変わらず放課後にはカラオケに向かった。文化祭準備は、「食販」「ステージ」「会計」「実行委員」の4つに分かれ、本番も同じ係のメンバーで動くことが多い。だからこそ高校時代の文化祭という青春は準備からが始まりだ。
矢部と井口がステージ係を希望した。明るさが持ち前の2人にはピッタリだ。僕は田中が食販をしようと言ってきたので食販を希望したかったが"実行委員”をすることになる。
そもそも実行委員は文化祭で1番重要な役割であり、全体を仕切らないといけない。そんなの普通なら避けるが、山田ミクが実行委員に入っている。その情報を聞いた田中、矢部、井口の3人はクラスで実行委員を決める話し合いの際に僕を推薦し、山田ミクと近づける作戦!を僕には内緒で考えていたのだ。ステージはあまり人も要らず毎年埋まるのが早い。だからステージを決める際に2人とも早く手を挙げ、前に座っている2人、その前の席の人とどんどん手を挙げさるように声をかけていたのだ。そうしてステージ係がすぐに決まった。これこそが僕を実行委員に入れ山田ミクと近づける作戦!の1つだった。
(明るさが持ち前の2人にはピッタリと感心したあの時間…返してほしい)
僕は作戦にまんまと引っかかってしまった。田中が食販を誘ったのは一緒にしたいからではなく、ステージ係を矢部と井口が仕込んでいるためすぐに決まるのを知っていた。そして食販に手を挙げる数が多くなることも知っていたからだ。というのも食販は毎年実行委員を決める前に聞かれるため、ステージ、会計がダメだった場合みんなは大抵実行委員を避けるために消去法としてここで手を挙げる。その場合はジャンケンを行い、負けた人プラス実行委員をしたい人、決まってない人から実行委員に向いてる人をクラス全員に聞き代表の6名を決める。そこでも決まらなかったその他がインスタスポットや、ちょっとしたグッズ販売を考えたりする。田中の作戦通りと言っていいだろう、見事に食販のジャンケンに負け、実行委員を決める話し合いまで残ってしまったのだが、田中もジャンケンに負け話し合いに参加していた。(ざまぁ)と僕は心の中で笑いながら田中を見ると、悔しそうに拳を見ていた。
実行委員を決める前に「インスタスポットやグッズ販売したい人がいないか」と担任が問いかけた。すると田中は「僕します」と1番に手を挙げた。他に居ないか担任が続けると「私やります」と花咲サクラが手を挙げた。花咲サクラは3年の中では人気があり、名前の通りその綺麗さは眩しかった。実行委員を毎年していたため、なぜこのタイミングで手を挙げたのかはこの頃はまだ知らなかった。
田中のさっきまでの悔しさはどこに行ったのか、なにかに見とれた表情を浮かべた。まるで新しい気持ちが芽生えたみたいに。こうしてインスタスポット·グッズ販売係も決まり、
いよいよクラスみんなが見守る中実行委員を決める話し合いが始まった。
「先生!実行委員なら竹下がいいと思います」矢部は笑いをこらえきれず声が震えている。すると井口も続け「僕も竹下がいいと思います、」2人とも目を合わせ笑っている。この2人の声が上がった瞬間視線が一気に僕に集まった。横でニヤニヤしながら見ている田中も「先生!僕も竹下がいいと思います、こいつ俺らの中でもリーダーみたいな存在なんで!」 (まじかよ、こいつら....)
担任が僕を見ながら言った。「竹下でいいか?異論がなければ...」担任までこいつらの作戦に参加してるのではないかと思うくらいスムーズに話は進んだ。
もちろん異論しかないが、もしここで実行委員になれば山田ミクと一緒に実行委員としての仕事もするようになり、本番も一緒だと思うと、どこか嬉しさもあり、気づけば僕は小さく頷き「分かりました、僕がやります」と答えていた。
こうして僕は、あいつらの作戦にまんまと乗せられ“実行委員”になることが決まった。
「じゃあ実行委員は、決まりだな」と言いながら黒板に僕の名前を書き、全ての係が出揃った。係決めが終わり、ホームルームが終わると教室はひと息ついたみたいにざわざわしていた。同じ係になったものや、友達同士で集まり「一緒になれて良かったな」「よろしく!文化祭楽しもうな」そんな言葉が飛び交い合う。僕が荷物をまとめているといつもようにあいつらの声がきこえてきた。
「おい実行委員長〜!」
背中から矢部の声が飛んできた。
「実行委員長じゃねぇよ」
振り返る間もなく、矢部が肩に腕を回し、井口もあとを追うように笑いながら僕に近づいてきて「よかったな、文化祭の主役はお前だな」
田中も続けて「本当よかったな、文化祭楽しめよ」僕が「はいはいおかげさまで」と返すと3人は笑った。いつものようにカラオケに向かう途中僕は田中の肩をポンポンと叩き「よかったな田中も!」とみんなに聞こえるように言うと田中は動揺を隠せず「な、なんで俺なんだよ」と必死に答えるが、全く隠せていなかった。
井口は肘で田中の脇腹をつつきながら「だからずっと花咲のこと見てたのか、おかしいと思ったんだよ」すると矢部も続け「はいはいこっちも青春ですか」とさっきまでの冷やかしは僕から田中に一気に移り、田中の顔はますます赤くなった。
「文化祭ますます楽しみだな!」「いい思い出にしような」そんな矢部の言葉は僕たちを暖かくした。いつものカラオケに着き、受付を始め、ドリンクを取り部屋に向かおうとした時だった。後ろの方から「竹下先輩ですよね?」僕が後ろを振り向くとそこには山田ミクとその友達が立っていた。明日から始まる文化祭実行委員全体ミーティング前に会うことになるとは思わなかったし、何より僕の名前を呼んだことに驚いたが、山田ミクは僕が何も言えずにいると「実行委員ですよね、担任から聞きました。明日から一緒にがんばりましょうね」と続けると可愛すぎる笑顔を僕に向け、友達と部屋へ入っていった。僕は緊張と山田ミクの可愛さに負け、何も言葉が出なかった。
僕たちも部屋に入った。まさかの山田ミクたちとは部屋が隣だ。
部屋に入るなり僕の心臓は大きく跳ねた。
「....終わった」緊張と何も返せなかったショックで僕はその場に立ち尽くした。
「おいおい竹下ぁぁぁ!!」矢部は笑い混じりでそう言いながら近づくと井口も「なんで何も言わないんだよ、せっかくのチャンスだっただろ!」
と笑い混じりで言ってくる。田中は「いや〜さっきの竹下の表情最高!恋始まってんじゃん」と笑い混じりどころか、腹を抱えて笑っていた。
「ふざけて笑って、それでも少しだけ」 タケ @Nago756375
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