「ふざけて笑って、それでも少しだけ」

タケ

第1話いつもの放課後、最後のカラオケ

大好きです。付き合ってください。

たったこれだけの文を何度も書き直した。

あの日の放課後から始まった僕たちの小さな奇跡の物語。

そんな僕たちの出会いは高校3年生の時だ。僕は田中、矢部、井口、この3人と毎日をこの高校で過ごしてきた。「竹下カラオケ行くぞ!」そう僕を誘うのはいつも矢部だった。

放課後になると僕らはチャイムが鳴ると同時に走って教室を飛び出し、いつものカラオケに行くのが日課だった。そんな日々も気づけば終わりが近づいていた。卒業まで残り少し、そんな卒業前最後に待っているイベントが文化祭だ。僕たちはきっと何も変わらず、このそこそこ楽しい日々を卒業まで過ごすのだろうと思っていた。

学校も文化祭に力を入れ始めいよいよだなと噛み締めながら今日もカラオケに向かってはいつものように歌を歌い、バカみたいに笑いながらも僕たちはもうすぐ終わるこの日々がなんとなく悲しくいつもより静かに感じた。そんな静まり返ったカラオケルームの空気を変えたのは矢部の一言だった。「1年のミクちゃんってまじ可愛くね?まじ付き合いたいわ!」

「ミクちゃんは可愛いけど、僕たちには無理だよ」冷静な田中が即答する。

(...まぁそうだよな)僕も心の中で同意しかけたとき──井口がなにか閃いた表情をしてこう言った「面白いこと考えた!」井口のこの言葉を筆頭に矢部の勢いも増し、「聞かせて面白いこと」と続けた。さっきまでの静まり返ったカラオケルームが嘘のようにまた明るくなった。そう、これが僕たちであり、これが"男子高校生”という生き物である。僕もこのバカバカしい感じが好きで、ずっと続いて欲しかった。

井口の提案はこうだった。

1.ジャンケンで負けたやつは文化祭を坊主で参加すること

2.勝ったやつは文化祭で山田ミクに告白すること

そう提案した井口ももちろん山田ミクが好きだった。

「よし!乗った!」1番に叫んだのはもちろん矢部。田中も「最後の思い出にいいよ」と冷静に言ってるように見えたが本当は乗り気だったこと、田中も山田ミクが好きだっと言うことを僕は知っていた。僕も「よーし!やるぞ」と立ち上がった。そう、僕も誰にも言ってないが山田ミクが好きだ。

僕たちは円になり手を出した

「最初はグー、ジャンケンポン!!」

井口は✋、田中は✊、矢部は✋、僕は✋

田中が1人負けだったため田中の坊主が確定した。

「くそー、みんな俺の坊主楽しみにしとけよ」と田中は笑顔で答えたが負けが分かった瞬間のどこか悲しそうで、でもこのみんなとの時間を楽しんでいるようななんとも言えない表情を僕は今でも思えている。✋を出した井口と矢部と僕は山田ミクへの告白をかけてもう一度ジャンケンをするために息をととのえ色んなことを考えた。付き合えるはずないと分かってながらも勝ったらあの山田ミクに告白できるという嬉しさと、恥晒しになるのではないかという不安。一体僕たちはなにをしてるのか。色々な感情と一緒に緊張が走っていた。「最初はグー、ジャンケンポン!」

井口は✋、矢部も✋、僕は✌️を出した。

─勝った。

この結果僕の文化祭で山田ミクへの告白も決まった。僕が固まっていると、「いいな、勝ちたかった」と矢部。それを見て笑う井口。そして田中は誰よりも優しい笑顔で僕のことを見て、「文化祭楽しみだな」と言った。

僕も田中やみんなへの申し訳なさ半分、山田ミクにすきな気持ちを伝えれることからほんの少し文化祭が楽しみにもなった気がする。「文化祭まであと2週間だな」そんな会話をしていると時刻は7時前になり僕たちは帰る準備をして、帰っていく。

帰り道はいつも田中と僕、井口と矢部にわかれて歩いていく。田中との帰り道はいつも楽しく、色んな話をするのだが、今日はなんだか気まずさもあり、しばらく無言だった。すると田中がぽつりと呟いた「文化祭いい思い出にしような」

「···ごめんな」僕がそう続けると、田中は笑いながら「山田ミク、好きなんだろ?気づいてたよ」と言った。さすがいつも冷静な田中であり、さすが僕の親友だと関心した。田中はさらに続けた。

「もし告白が成功して付き合うことになったら絶対幸せになるんだよ」この言葉を強く受け止め「また明日」と残し僕は帰った。


このあと、文化祭準備が始まり

ミクと同じ役割になるために——あの3人が仕込んでいた作戦が明らかになる。そして、田中の“新しい表情”の理由も。

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