新しい僕のこれから

雨夜かづき

第1話

目が覚めるとお医者さんと知らない女性がいる。

急いで起きあがろうとするが身体中が痛くて動けない。


「目が覚めたところ申し訳ないのですが、今からいくつか質問をしてもよろしいですか。」


お医者さんに声をかけられた。

全く状況がわからない。

身体中が痛いし知らない人もいることから考えると事故にでも遭ったのかな。

状況もわからないしとりあえずお医者さんの話を聞こう。


(はい、お願いします。)


「では始めたいと思います。まずは、あなたのお名前を教えてください。」




あれ?

僕の名前ってなんだっけ?

どうしよう、思い出せない…。


(すみません、わからないです。)


僕がそう言うとお医者さんの近くにいた知らない人が泣き出した。


「やっぱり忘れてしまったのね…。」


「やはり事故で頭を強打した結果、記憶喪失になってしまったようです。」


記憶喪失?

僕が?

たしかになぜここにいるのかも自分のことも何もわからない。


その後も同じようにいくつか質問を受け、それに答える時間が続いた。

質問は終わったが、お医者さんが険しそうな顔をしている。


「不幸中の幸いですが、常識的なことは覚えているようです。ですが、人間関係や自分のことについてはすっかり忘れてしまっています。」


「そんな…。」


お医者さんの後ろにいる女性が泣き出した。

周りの空気を感じ取るとだんだんと不安になってくる。

もしかして僕とあの人たちは知り合いなのかな。


(何があったのか教えてもらってもいいですか。)

不安はありつつもお医者さんに尋ねた。


「最初から説明しますね。君は5日前に学校から家に帰る時に車に轢かれたのですが、そのときに頭を強くぶつけちゃって…。その影響で部分的な記憶喪失になっています。今私の後ろにいる方はあなたのお母さんです。」


記憶喪失…。

そんなことがあったんだ。

そしてあの人が僕のお母さん。

家族のことだと言うのに何も思い出せない。


その後もお医者さんからある程度話を聞いた。

記憶喪失については曖昧な部分が多く、僕が記憶を取り戻すかどうかはわからないらしい。

そして話が終わるとお医者さんは退出し、お母さんと2人きりになった。 


「ごめんね、⚪︎⚪︎が苦しんでいるのに何もしてあげられなくて…。」


お母さんは泣きながらそう言う。

僕は何も覚えていないけど、お母さんが泣いている姿を見ると自分も泣きそうになってしまう。


(これからどうしたらいいんだろう。)


不安になりつい言ってしまった。

お母さんは当然事故が遭う前の僕のことを知っている。

何もわかっていない僕よりきっと不安なはずだ。


「もし記憶が戻らなくても大丈夫よ。これからのことはゆっくり考えていきましょう。」


そう言われてもやっぱり不安は消えない。

これからのこと…。




お母さんとは少し話したあと、急なことが多くて疲れただろうと言うことで1人にしてもらった。

1人になると、暗闇の中に閉じ込められたような不安と同時に、ようやく自分になることができたという安らぎも覚える。

正直なところ、あの人が本当のお母さんなのかもわからない。

もしかしたら騙されているのかもという気分にもなる。

そんな気持ちを抱えながらもあの人のことを「お母さん」と呼ぶ。

いったい自分ってなんだろう。

起きてからずっと台本を読んで会話をしているかのような不気味さがある。


きっと自分は事故の時に死んだんだ。

根拠はないけど、記憶が戻ることはないだろうと言う確信がある。

僕はこれからもあの台本の生活のままだ。

そう思うと未来のことなんか考えることはできない。

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新しい僕のこれから 雨夜かづき @amayakazuki

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