雪が降る夜、君に触れて──ブリキの機械人形の、はじめての涙。

StoryHug

君がくれたあたたかさ

ぼくは、感情という仕組みを持っていない。

喜びも、悲しみも、幸福も、知らなかった。

ただ動き、ただそこに在るだけの、“機械”だった。


けれど──

彼女と出会ったあの日から、世界が少しずつ変わり始めた。


雪が降った。

白くて、冷たくて、触れるとすぐに溶ける儚い結晶。


それを見たとき、ぼくの胸の中で、

なにかが、ふわりとあたたかく灯った。


「綺麗だね」

彼女がそっと微笑って言った。


その声を聞いた瞬間、

ぼくは、はじめて“想う”という感覚を知った。


綺麗だ、と。

美しい、と。

守りたい、と。


ぼくの中に、存在しないはずの言葉が、

光になって生まれていった。


彼女はぼくに寄り添って、

一枚のブランケットを分けてくれた。


あたたかい。

世界は、こんなにも、やさしかったんだ。


もし、彼女がいなかったら──

ぼくは、この奇跡に気づけなかっただろう。


雪が降る夜。

ぼくは、胸の光が少しだけ強くなったのを感じた。

それが、きっと、“心”というものなのだと思う。


そして、ぼくは小さくつぶやいた。


ありがとう。

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