概要
近未来──。
国は「人類に必要な人間」の基準を定め、それに満たない人間を静かに排除していた。
男は、ある日突然捕らえられ、病院のベッドに拘束される。
点滴バッグから流れるのは、人類に「価値ある成果」を残した男性の脳を液状化した赤黒い薬液。
これは、彼の脳を「価値ある脳」に上書きするための「新しい脳移植」。
記憶が上書きされ、やがて自分の意識が消滅すると知った男。
だが、最後まで消えなかったのは、妻と娘への愛という、誰にも奪えない感情だった。
脳の移植が完了する直前、彼は最後の抵抗を決意する。
愛する者の顔すら思い出せなくなる絶望の中で、男が辿り着いた命懸けの脱出劇。
自分の脳を奪うことになった「価値ある男性」の想
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!果たして男は“生きた”のか。深く考えさせられる一作
人間の価値を問う哲学的な物語です。
主要人物3人全員がどこか歪んでいて、読めば読むほど深みにハマっていくことでしょう。
これは、近未来の出来事。主人公は国のとある組織に捕らえられます。
主人公は『替えのきく人間』。
国にそう判断され、人類にとって必要な『価値ある人間の脳』に置き換わろうとしているのです。主人公はその対象に選ばれてしまいました。これだけでもう、ダークなSFの雰囲気にゾクゾクします。
自分は確かに『替えのきく人間』。
だけど、家族という小さな枠組みにとっては、自分は必要な存在のはず。主人公は縋るように問います。
しかし、白衣の男に言いくるめられてしまうのです。
主人公の存在…続きを読む - ★★★ Excellent!!!価値と平均と執着のトロイメライ
人間としての価値を問われたとき、人は何に縋るのか。
この物語で描かれるのは、社会的な評価でも、功績でもない。
極限まで追い詰められたとき、男が最後にしがみつくのは、
「父である自分」「夫である自分」という、極めて個人的な役割だ。
物語の中で流れ出す トロイメライ は、
安らぎの音楽としてではなく、異物として現れる。
それは主人公の記憶ではなく、
「価値があるとされた他者の人生」に属する旋律だからだ。
妻を深く愛した ロベルト・シューマン、
そしてその音楽を誰よりも美しく体現した
クララ・シューマン。
家庭や愛情の象徴とも言えるこの音楽が、
人格を上書きされていく男の内側に流れ込むことで、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!国家に「価値」を決められる恐ろしさ
国家に「価値がない」と判断されるという設定に、まず強い恐怖を覚えました。
とくに、主人公が必死に家族の存在を訴える場面は胸に迫り、「それでも切り捨てられるのか」と読んでいて苦しくなります。
記憶が少しずつ混ざっていく描写も非常に怖く、自分が自分でなくなっていく感覚が生々しく伝わってきて驚きました。
さらに終盤の展開には思わず息をのみました。
ここで反転するのか、と強く印象に残ります。
主人公に同情していたはずなのに、最後には「この人は本当に正しいの?」と考えさせられ、読後もしばらく余韻が残りました。
人の価値や正義を安易に信じてしまう自分自身を試される、後味の鋭い一作だと思います。