第6話(最終話)魔王城は観光地になったらしい

「ねえ、クロ。今度、デートしない? 気になってるスポットがあるんだよね」


 ルナのおねだりは何でも聞きたいと思ってしまうのは惚れた弱みか。


「いいよ。どこ行きたい?」


 そう尋ねると、ルナはパンフレットを開いた。


「あのね、魔王城跡地に行ってみたいんだ」


「ああ、あそこか……」


 ――半年前のこと、魔王が引退を宣言した。


 クロがいつも戦っている『書類の山』の魔王ではない。

 本物の、世界征服を狙っていた方の魔王である。

 どうやら、転生者が倒した、というわけではなさそうなのだが……。


「そういえば、半年経っても全然勇者が討伐証明書を取りに来る気配がないんだよな」


「勇者様、どこかの辺境でラーメン屋を開いてひっそり暮らしてるらしいよ」


「ま~たスローライフかよ……」


 ともかく、魔王が引退した後、魔王城は跡地として観光名所になったのだった。

 ルナの誘いもあり、二人は今度の休みに、魔王城へデートに出かけることになる。

 ……まあ、いわば歴史上の土地を見て回る感じだ。


 魔王城跡地は、人でにぎわっていた。

 ツアーが組まれているらしく、旗を持った添乗員のあとに付いて歩く集団がいる。


「魔王城もなかなかの辺境だと思ったけど、けっこう交通がしっかりしてるんだな」


「ね。ワイバーン便も快適だった~」


 四頭のワイバーンに支えられ、空を飛んで移動する乗り物は、魔王城についたあとはワイバーンを休ませていた。

 夕方には帰りの便が出るから、それまでに観光を終えなければいけない。

 魔王城は五階建てで、一階から四階までは四天王と呼ばれる配下の部屋、五階が魔王の部屋らしい。


「――というわけで、魔王様はかつて、転生者からネイバーランドを取り戻そうと悪戦苦闘したわけなんですねえ」


 その四天王たちは、現在魔王城の案内役ガイドを務めているというわけだ。

 そして、魔王は何をしているかというと――。


「魔王城土産の魔王まんじゅうはいかがかな? なんかかっこいい剣の形のキーホルダーもあるよ~」


 ……魔王城公認の土産物屋の店主をしている。


「あ、魔王まんじゅうくださーい」


「へい、まいど!」


 ……魔王、接客慣れしすぎだろ。


 ルナは普通に声をかけて普通に土産物を物色していた。

 マジかよ……元とはいえ魔王だぞ……。


「魔王が商売なんて、落ちたものだな……」


「ふん。魔王としての威厳もプライドも捨てたわ。この城の管理者として、転生者から金を巻き上げるのが一番楽でスローライフよ」


 なるほど、一理ある。

 そこへ「まいど、商品の納品に来ました」と業者らしき男がやってきた。

 しかし、男は手ぶらだった。

 商品らしきものは見えない。


「おお、ご苦労さん」


 魔王が声を掛けると、男は背負っていたリュックを下ろす。


「『チートスキル:無限収納インベントリ』は本当に便利だな。こうやって商売にも使えるから食いっぱぐれがないぜ」


「チートスキル……? この人、転生者?」


 ルナが意外そうな声を出した。転生者が魔王と手を組んで商売をしているのは一見異質である。


「ああ、こいつはなかなか便利で見どころがある。我の倉庫として使っておるのよ」


「平素より、お引き立ていただきありがとうございます」


「今後、我の静かなスローライフを邪魔するような転生者が出たら、末代まで呪ってやるからな……」


 魔王の表情は切実なものであった。


 こうして、魔王城での観光を終えてギルドでの日常に戻ったクロには、相変わらず受難が襲いかかる。


「ゴブリン討伐の依頼、ご苦労様でした。討伐数は……10体ですね。報酬を計算します」


「待ってください! 俺、討伐のついでにゴブリンの肉を加工して『ゴブリンジャーキー』を作り、ギルド前で路上販売したんです。その利益は依頼報酬に加算されないんですか!?」


「それは依頼外の公道無許可営業です! すぐにやめてください! 胃もたれしそうなので!」


 ……なんで毎回こうなるんだ。


 ――転生者はもうコリゴリだ!

 クロはそう叫びたいのを必死にこらえて、今日もギルドで奔走するのであった。


〈了〉

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転生者はもうコリゴリだ! 永久保セツナ @0922

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