ダチョウと幽霊*後編

「で、ここだな」

 ラザニェが三階建ての建物を見ながら、ため息をつく。

 旧世紀で人気だったという白亜の城。使うか分からない空へ向かった棒に加えて、細く伸びる三角上の屋根付き棒。ラザニェはパエリャみたく『色々』見ないので、これがいいものか、悪いものか分からないが、ちらりと後ろを向く。

 貧民街から五キロほどといったところか。

「ダチョウ~」

 スパが「からんからん」とベルを鳴らす。必要なのかと玄関の脇に付けられたカメラを見て、ラザニェは二度目のため息をついた。

「オオオオオ゙オ゙!」

 カメラから気持ち悪い悲鳴らしきものが聞こえたと同時に門が開いて、百メートル玄関から依頼人が出てきて、猛スピードでこちらに来る。

「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ン゙! さすがイーヴェ様の事務所!」

 抱きつかれそうになったのをヒョイッと避け、営業スマイルは無理なので無表情のまま、

「お家を拝見しても?」

「もちろんですとも!」

 依頼人を置いて家の中に入り込む。問題の箇所は階段なので、そそくさと見つけて、そそくさと帰るのをラザニェは目指している。機巧型スキルズが関係していないなら、もっといたくない。

屋敷ハウス内スキャン完了。階段はこっちだよ、ラザニェさん」

 こんなに広いのに一つしかないんだねえ、とスパが言いながら歩いていく。

 そんなにも遠くなく、すぐに見つけた階段は、埃が舞っているのかしろっちゃけていて、少しガラスも曇っている。

「見た感じ、違和感はないな」

「スキャン完了。生物バイオロジー有機物リミッター、不審なところは見当たりません」

 スパの言葉と同じくしてフランソワも首を振って、何もないとジェスチャーする。

「ダチョウ」

「ダチョ?」

「五キロ先の貧民街から電子プラズマ照射ポインタ系で『なにか』おこせるか?」

「ダチョウ~」

 うーん、とダチョウが腕組みをしながら首を傾げる。

 ピズのアタッチメントならギリギリの範囲だが、「幽霊を見せる」という芸当はできないと思われる。

 ラザニェは、とんとんと上がり、踊り場の床を擦ると、確かに掃除をしてないせいで指に埃がたまった。

「まあ、五キロでも近づいちまえば何でもできるか」

 問題は「どうやってやったか」、そして犯人がいるなら「捕まえられるか」または「捕まえるにたりるか」である。

 どうせ理由など「金持ちだから」で終わるはず。

「ダチョ、ダチョウ、ダチョウ、ダチョダチョ」

「五キロは無理か。どうするかな」

 はあ、と三回目のため息をついて指から塵を払う。

「この場合、現場を押さえるのがいいと思います」

 スパの言う通りなんだよなあ、と四回目のため息をつく。

「でも、どうやって幽霊を見せるんだ? 機巧型じゃないなら幻覚を疑いたいが」

 あの依頼人だ。見間違えという可能性があると思いつつ、身間違えをなくす為に自分たちは来たのだと再度考える。

「み、見間違えじゃないんだ。それもだんだんとはっきり見えてきているんだ!」

 いつのまにやら戻って来ていた依頼人が顔を真っ青にして言う。

「だけど……あー、ですが、現場には幽霊を立たせるだけの証拠がありません。所員の言う通り、仕掛けている犯人を現場で押さえるのが一番です」

「なら!」と、

 懐から百万円ほどか、それが出てきてダチョウに渡す。

「これでなにとぞ、あっ、あと来てくださった金も」

「あーあー、それはあとで頂きます。今は犯人を先に」

 まあまあと手で空中を押さえていると、パッと踊り場に光りが灯り、人間型の何かが立っていた。

「ダチョウ!」

 まだ一階にいたダチョウに対して「頼む」という形で名前を呼ぶ。

「ダチョウ!」

 ジジッと小さくなる幽霊は、それがなんだか機械オタクのラザニェは簡単に分かる。

 駆けていったダチョウは正門を右に、ちょうど階段と正面になるところまでいくと「離せー!」「きめぇ!」と言った声と共に、両腕に子供を抱いて帰ってきた。

映像シアター現像レーザーか」

 四角の箱に小さな穴を開けて照射して光源を遠くに発射フラッシュさせるもの、旧世代にあった映画ムービーの雛形とも言える消えた技術に近い。

 映画ムービー自体は娯楽遊園アミューズメントルームにもあるので、この子供たちが使っているのは点を遠くに映すだけの簡単なものだ。

 こんなに早く見つかるとは思ってなかったので、ちらりと依頼人を見る。

「あーとですね、これは光りを照射するもので、おそらく踊り場に光りを飛ばし、それが階段のガラスに当たり、光りが拡散されて人のように見えていたと断定できます。で」

 ダチョウに捕まっている悪ガキ二人を見る。

 スパくらいだろうか。ちょうど「そういうことをしてしまう」くらいの歳だろう。

「掃除がされず、塵が空中に浮いていることで、さらに光りが拡散されて、人のように見えていたのだと思いま、す」

 悪ガキの一人が持っている黒い箱を見ながら、説明するが「こんなんでいいだろうか」と依頼人を見る。

 こういったことはパエリャやピズの役目だ。今回もスパにやらせるつもりだったのに、ちょうどよく現れてくれたのでラザニェが説明することになった。

 もう表情筋が痛い。

「なるほど~~! つまり、幽霊ではなかったと」

「は? いや、はい」

 依頼人はダチョウに抱えられている子供たちにずいっと迫り、

「きみたち~、ダメじゃないか、こんなイタズラしちゃ」

「うっせえ! 豚!」

「こんなところに家を建てやがって!」

 子供の口が悪い。格好から貧民街の子だと分かるが、こういった技術をどこで学んだのか。それが気になるのだが、

「アハハハ、元気な子供たちだ。遊びたければ、たくさん遊びなさい。アハハハ」

 依頼人が、めっちゃいい顔をしながら、子供たちの手をとって笑う。

「うっ、な、なりきんぶた!」

「で、でーぶ!」

 子供たちが戸惑うぐらいだ。

 ラザニェも思っていたことだが、この依頼人、ちょっとネジが違うところにあるらしい。まあ、悪い方面ではないので無視してもいいのだが。

 一応、ゴン、ゴンッと二人の頭をラザニェは殴っておいた。

「いってッ」

「いたい~」

「一応な。人に発射して目に当たると失明する可能性もあるんだ。逆にお前たちもぉお?」

 ずいっと依頼人が顔を出す。

「そうなのかい!? じゃあ、きみたち、うちの庭でいいなら遊びなさい。他の子たちも来てもいい。それまでに人形をたくさん用意しておこう凡庸娯楽機巧型ベナリィアミューズメントスキルズも」

「あ、あの?」

 ラザニェが声をかけると依頼人は、にんまり笑って、

「いたずらするぐらい元気なんだ。もっと遊ばないとね。子供は遊んでなんぼだから」

「はあ」

「あ、これは諸々の料金だよ」

 ボストンバッグに入れられた金を見ながらラザニェは顔を引き攣り、他は「わあ」「ダチョ!」と喜んでいた。

「う~、こういう輩はパエリャ~きてくれ~」

 頭を抱えて、やはり人間はいやだと呻いたのである。


   *   *   *


「と、いうことで依頼人の家は子供たちの遊び場になったと」

「はい、そうなります」

 スパが緑茶アンチグリーンティを飲みながら返す。

「オレは、もう二度と責任者として出ないと誓った」

「あはは、もうこりごりだって?」

 パエリャは机に突っ伏したラザニェを後ろから抱きしめて言う。

「でも、あのご依頼人の方、子供が大好きで良い関係を結んでいると聞いてますわ」

 同じく緑茶を飲むピズが嬉しそうに話す。

「ダチョウ!」

「あー、そうだよな。貧民街の子供がああいうことが出来る知識を持っているのが不思議だったんだよな」

 ダチョウに言われてラザニェは顔を出す。

「どこかで知ったんじゃない?」

「まあ、簡単な技術だしなあ」

 起き上がってパエリャの腕を持ち、膝に乗せると「はあ」と胸元に顔を寄せる。

「オレには機巧型スキルズで充分だ」

「あ゙?」

 ごんっとラザニェの頭にパエリャの一撃が入ったのであった。

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Attack on Daチョウ 大外内あタり @O_soto_uti_ATR

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