おくり村

示門やしゃ

第1話


 暑い斜陽が縁側に差し込んできて、蝉の鳴き声がより一層暑さを引き立ててくる。

 少しでも涼しくするために、少年──**は団扇をあおいでいた。しかし、焼け石に水とはこのことだろう。**がいくら仰いでも、暑さは消えない。

 うるさいほどに蝉の鳴き声が響いている中、床板が軋んだ。

 その音をきっかけに、蝉の鳴き声が止んだ。それだけではなく、先ほどの暑さも嘘のように消えている。

 **は縁側に座ったまま庭を見渡して、床が軋んだ廊下の方に振り返った。

 障子から体を半分出した、和服の少年が**を見ていた。

「**、ご飯よ」

 母親が**を呼んだ。**は返事をした。すると、再び蝉の鳴き声が聞こえて、斜陽の暑さが戻ってきた。

 廊下に目をやると、和服の少年はいなかった。

 見間違いだったのだろうか。

**は母親のもとに向かった。


翌日の夕方、**は縁側で寝転がりながら漫画を読んでいた。

庭からは相変わらず、蝉の鳴き声が響いていた。

**の頭上には扇風機があるので昨日よりは熱くない。

床が軋んで、蝉の鳴き声と斜陽の暑さが消えた。それに加えて扇風機の風も感じられなくなった。扇風機が止まったのだろうかと**はは漫画から目を離して確認したが、扇風機は**に向けてプロペラを回していた。

床が軋んだ音に続いて、今度は畳を踏む足音がひたひたと**に向かって近づいてきた。

**が足音の方を向くと、和服の少年が**の目の前に来ていた。

「……」

 **は怪訝な表情を浮かべて、和服の少年を観察していた。

「ねえ」

 **は和服を着た少年に話しかけた。

「どこから入ってきたの? お母さんたちに怒られちゃうよ?」

 和服を着た少年は**の質問に答えず、縁側から庭に降りた。

 和服を着た少年は縁側の下に頭を突っ込んで何かを漁りだし、取り出したものを**に見せた。

「遊ぼう!」

 そう言って笑う和服の少年の手には、土で汚れたサッカーボールがあった。

 サッカーボールは元々**の家にあったものだが、なぜ和服の少年が置き場所を知っていたのだろうか。

「う、うん。いいよ」

 戸惑いつつも、**は和服の少年の誘いに乗った。


 陽はさらに西に傾いて、辺りはすっかり暗くなっている。

**と和服の少年は時間を忘れてサッカーに夢中になっていた。

廊下から慌ただしく足音が近づいてくる。その足音は障子の前で止まって、勢いよく障子が開かれた。

「**! 宿題はやったの?」

 **の母親がそこに立っていた。

「今やるところだよ──あ」

 **は和服の少年の存在を思い出した。勝手に入ってきたであろう彼が、母親に見つかったらこっぴどく叱られてしまう。

「待って、この子は」

 和服の少年がいた場所を見たが、そこにはサッカーボールだけが残されていた。

「あれ?」

「この子って、誰のこと?」

 和服の少年は母親には見えていなかったようだった。

「もうすぐ晩ご飯だから、早くやっちゃいなさい」

「はぁい」

 **はサッカーボールを縁側の下に戻した。


 そのまた翌日の夕方、**は机に向かって宿題をやっていた。

 今日は晩ご飯までの時間を目一杯使って和服の少年と遊びたかった。それゆえに**はいつもより早く宿題を終わらせたかった。

 **の自室のドアが音を立てて開いた。母親が飲み物でも持ってきたのかと思い、**は振り返った。

 そこに和服の少年が佇んでいた。

「入ってきちゃったの?」

 **は少々焦った。縁側から**の自室までは階段を経由しなければならない。道中で母親に見つかっていないだろうか。

「遊ぼう!」

「うん、いいよ」

 宿題を早めに終わらせることができたので、**にはかなりの時間があった。

「何して遊ぶ?」

「遊ぼう!」

 和服の少年は**の手を引いた。

「外に行きたいの?」

「遊ぼう!」

「いいよ。またサッカーでもする?」

「みんなまってるよ」

 **の自室のドアがゆっくり開く。

「え」

 ドアの外で、大勢の子供たちが大きな塊になっている。塊を作っている顔はどれも虚ろな目をしていて、焦点が合っていない。


 **の自室のドアはゆっくり閉じて、部屋は無人になった。


 **の母親はジュースをトレイに乗せて**の自室へ歩いていた。

 **の自室のドアを開ける。だが、**はいなかった。

「……**? **?」

 トレイを床に落として、ジュースがこぼれた。

 息子の名前を呼ぶが、よく思い出せない。発音できるのに、自分でも何を言っているか認識できない。

「……まさか、あの子が贈られたの?」

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おくり村 示門やしゃ @zimon-yasha

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