第14話 透明な会議のあとで
色々意見は飛び交ったけど、結局予算会議は大きな変更はなく、最後は牧師の祈りで締めて会議は終わった。
皆さん身支度を整えてあっさりと帰っていく。
榊原牧師は少し疲れたように椅子に座ったままだった。
そりゃ自分の生活費減らされるかもって会議は身も削られるだろうな……。
「先生、お疲れ様でした」
榊原牧師に近づいて声をかけると、牧師は軽く息をついてから微笑んで答えた。
「ありがとうございます。予算会議、いかがでした?生々しくて驚かれたんじゃないですか?」
「はい、……正直リアルなやり取りで戸惑いましたけど、逆にここまで透明性があるんだって思いました」
「教会は皆さんの献金で成り立ってますからね。収支を明らかにするのは義務だと思ってます。何に使われてるか分からないものにお金を出すって普通は嫌ですから」
「そうですね……。あの、夕香さんは体調はいかがですか?」
私が聞くと榊原牧師は一瞬目を丸くしたけど、すぐに腑に落ちたようだった。
「ああ、高辻さんはご存じなんですね。はい、日によって体調の波があるらしくて、今日は朝から起きられなかったようです。多分今も寝てると思います」
「そうなんですね……」
つわりの具体的なしんどさは分からないけど、今はかなり辛い時期なんだろうか。
「はい。こういうときは男性は無力ですね。見守ることしかできないので」
またエバに対する突っ込みが出そうになったけど、今回はこらえた。
そのまま帰ろうかと思ったけど、せっかくの機会だしと思い足を止める。
「あの、先生。全然関係ないんですけど、また質問してもいいですか?」
「はい、何ですか?」
「実はうちの近所でもキリスト教会を検索してみたら、驚くほどヒットしたんです。こんなに教会ってあったんだと思って」
榊原牧師は微笑む。
「そうですね。結構多いと思います」
「そこにはカトリックや、行友教会のような日本基督教団もあったんですけど、名前が結構バラバラというか、どうやって教会って選ぶんだろうと思って」
すると榊原牧師は少し驚いたようだった。
「それはまた、興味深い問いですね。語りたくなってきました」
少し吹き出す。
「どうぞ、語ってください」
榊原牧師に隣に座るように促され、座って話を聞く。
「キリスト教には大きくわけてカトリックとプロテスタントがありますけど、プロテスタントの中にも会派が分かれてるんですよ」
「会派?」
「はい、ここが所属してる教団、日本基督教団のことですが、あとはルーテル会派、福音派、バプテストなどいろいろあります。あとは同じ教団内でも全く同じ教義を行ってるわけでもない。だからこれは実際に行ってみて本当にご自身に合うか、が大事ですね」
「合うか、ですか?」
「はい、教会の雰囲気、会員の距離感、牧師の説教、それらが自分にフィットするかです。合わなければ他を探す、それだけです」
「なるほど……、カフェ巡りみたいなものですかね」
すると榊原牧師は軽く笑った。
「面白い例えですけど、そうだと思います。自分が落ち着ける場所を探す、といった点では似てるかもしれませんね」
そうか……、私はたまたま行友教会に足を踏み入れて今ここにいるけど、これはまれなことなのかもしれない。
それとも私は本当に招かれたのだろうか。
「良く分かりました。ありがとうございます。夕香さんにもお大事にお伝えください」
そう言って立ち上がると、榊原牧師は嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます。伝えておきます。夕香も喜ぶと思います」
─────────────────────
予算会議などちょっとぎすぎすした雰囲気の3月だったけど、4月の第一週にはそれらを一変させるおめでたいイベントがあった。
イースターだ。
最初イースターと聞いて「卵を食べるイベントですか?」と質問してまた周りを爆笑させてしまったけど、イースターというのは要は復活祭だ。
イエス・キリストは最期、十字架にかかって亡くなったわけだけど、その3日後に復活したらしい。
それを祝うのが復活祭、イースターだ。
卵は新しい命が生まれてくる復活の象徴といわれているらしかった。
ところでイースターは毎年日が変わる。
その年の春分の日のあとの満月のあとの日曜日とのことで、早い年だと3月中、遅いときは4月の中旬になったりする。
それが今年は4月の第一日曜日だったというわけだ。
クリスマスは日が固定してるのにイースターはなぜ日が変わるのか、と塩見さんに聞いてみたけど「私も分からない」と返された。
イースター当日の礼拝も楽しげな雰囲気で、歌われる讃美歌も明るいものが多かった。
みんなでイエス様の復活をお祝いしているのが伝わってくる。
礼拝の後に茶話会があり、更にこの後はイベントが控えていた。
イースターエッグの色付けだ。
大量のゆで卵が用意され、そこに思い思いに絵を描いていくというものだ。
小堀さんや二宮さん、そして今日は体調もいいらしい夕香さんもいて、わいわいとみんなで絵を描いていく。
何よりこのとき今までと違ったのは子供がいたことだ。
聞いたところによると、この行友教会では毎週大人の礼拝の前に子供向けの礼拝、いわゆる教会学校を行っている。
そこに通っている子供たちも参加したのだ。
といっても子供は3人だけだった。
2人は小学生の兄妹、そしてもう1人は中学生と思われる女の子。
高齢化が進んでる教会だから子供が少ないのは容易に想像できる。
兄妹の名前は
2人でペンを取り合ったり、かわいく描けたのを見せてきたりして、大人だけでは静かになりがちな空気を賑やかなものにしていた。
もう1人の女の子は
杏奈ちゃんは言葉少なで黙々と描いてたけど、すごく細かく丁寧な絵を描いていたので
「綺麗に描いてるね」
と声をかけると、杏奈ちゃんは一瞬手を止め小さな声で答えた。
「絵を描くの、好きなんで」
杏奈ちゃんはこっちを見ることはなかったけど、ちょっと頬が赤くなってるのが分かった。
次の更新予定
祈りの灯り、私の居場所 カノンみわ @kanon-miwa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。祈りの灯り、私の居場所の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます