人間が作り出した「奇妙」なもの。その不思議に悩む紙幣たちの物語

 本当に、お金って不思議なものだなあ、と改めて感じさせられます。

 主人公は「五万円札」という、その世界での最高額に数えられる紙幣。
 その紙幣が主人公となり、「お金」である自分の境遇を振り返るという形式で物語が進みます。

 そんな五万円札にはきっちりと「型番」があるわけですが、なぜか彼(?)と同じ型番の紙幣があることがわかる。

 つまり、偽札でも作られたか。それは自分の存在を脅かす良くないものに違いない。
 そして、五万円札は改めて因縁の相手である「同じ型番の紙幣」と遭遇することに。

 その後、作中で出てくる言葉が色々な「揺さぶり」を与えてくるのがまた面白かったです。
 「生まれで差別をしてはならない」などの人間としてはデリケートな話が紙幣には伝わらないか。
 そして、ラストのオチで判明する「事実」というものが、「価値」というものに思わぬ変動を与える話など。

 一体何が尊くて、何が賤しいものとなってしまうのか。
 人間が作り出した「奇妙なもの」であるお金。その感覚に紙幣たち自身が頭を悩ませる姿がコミカルかつシニカルな香りを引き出していて、とても読み応えのある一作でした。

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