第2話*エピローグ:銀色のパンデミック
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**エピローグ:銀色のパンデミック**
取調室……ではなく、高速道路脇の検問所は、異様な空気に包まれていた。
「いいか、これは立派な窃盗だぞ。君がいくら『間違えた』と言い張っても……」
説教をする警察官の腰元で、無線がけたたましいノイズを吐き出した。
**『本部より検問班へ! 本部より検問班へ! 緊急連絡!』**
「なんだ騒がしい。今、容疑者を確保しているところだ」
警察官が不機嫌そうに応答する。
**『いえ、その……たった今、確保中の車両の「持ち主」から110番通報が入りました!』**
「ほう、被害者か。すぐに現場へ向かうよう伝えてくれ」
**『それが……被害者も動けない状態なんです』**
「どういうことだ?」
無線の向こうの声が、震えていた。
**『被害者も……「帰宅して車庫に入れたら、自分のカローラじゃなかった」と申告しています』**
「は?」
僕と警察官は顔を見合わせた。
警察官が状況を飲み込めずにいると、さらに別の無線が割り込んでくる。
**『浦安署です! こちらにも「自分の車じゃない」という通報が10件……いや20件! 増え続けています!』**
**『葛西署です! カローラです! 全部シルバーのカローラです! ナンバーが違うという通報で回線がパンク状態です!』**
現場の警察官の顔色が、サーッと青ざめていく。
「お、おい、どうなってるんだ……?」
**『報告によれば、ディズニーリゾートの駐車場から出庫したシルバーのカローラ、その数百台規模で、玉突き事故のように“乗り間違い”が発生している模様!!』**
あの一瞬。
僕がキーを押したあの一瞬。
数百人の男たちが一斉に「お、開いた!」と勘違いし、目の前のシルバーのカローラに乗り込み、そのまま走り去っていたのだ。
それはまるで、壮大すぎる椅子取りゲーム。
**『だめです! 通報が止まりません! 50件、100件……! 「俺の車は誰が乗ってるんだ!」「俺はいったい誰の車に乗ってるんだ!」とパニックになっています!! 湾岸線がカローラだけで埋め尽くされています!!』**
警察官は無線機を握りしめたまま、膝から崩れ落ちた。
そして、夜空に向かって絶叫した。
**「うわあああああああああ~~~~っ!!!」**
僕は助手席で固まっている彼女に、そっと囁いた。
「……ね? みんな間違えるくらい、よくあることだったんだよ」
「うるさい」
魔法の国が生んだ銀色の悪夢は、夜明けまで終わることはなかった。
(真の完)
「夢の国の出口は、銀色の悪夢(ナイトメア)だった。」** 志乃原七海 @09093495732p
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