## エピソード:親愛なる、友人の作者へ!!
**ささくれてくる…**
師走、忙しい、1年も残すところ、あとわずか。外の喧騒とは無縁に、私はこたつに潜り込み、分厚い半纏(はんてん)に身を包んでいる。石油ストーブが、抱きしめるには熱すぎるほどの熱を放ち、ジジ、と微かな音を立てている。
テレビでは、毎年恒例の「ゆく年くる年」が、古都の除夜の鐘の響きを伝えている。
こたつの上の、年季の入った木製の盆には、山と積まれた蜜柑(みかん)。冬の陽射しをたっぷり浴びた、橙色の宝石たち。
私は、無心で蜜柑の皮を千切っては投げ、千切っては投げ、散らかしていく。皮の裏側にびっしり張り付いた白い繊維(アルベド)を、人差し指の爪の先で、ひたすら、除去していく。この繊維が残っていると、どうにも口当たりが悪いのだ。まるで、人生のささくれのように、完璧な甘さの邪魔をする。
やがて、私の爪先は、蜜柑の汁と、あの繊維の黄色い色素にじわりと染まっていく。
**うー、染みる。痛いな。**
これは、蜜柑の酸っぱさではない。年末の忙しさに擦り切れた心に、ふと、孤独な静けさが染み渡る痛み。
「これが、人生…ふふ」
一人、小さな独り言を漏らしたその時。
隣で、夫が、遠慮なく蜜柑を口に放り込み、**ペッ**、と、皮を吐き出した。
「みかん🍊食べた、皮を吐き出すな!」
わたし、反射的に叫ぶ。せっかくの、この、人生の機微を噛みしめる鑑賞の時間に浸っていたのに。台無しだわ!
「うるせぇな!鑑賞に浸ってますのに、台無しだわ!」
わたしの剣幕に、夫は一瞬、目を丸くした後、肩をすくめた。
「すみません」
彼はそう言って、蜜柑の汁で汚れた指先を、こたつの上で丸くなっている愛猫の、ふわふわの毛にそっと撫でつけた。猫は気持ちよさそうに目を細める。
夫はそのまま、猫とこたつで丸くなる。一転して、静寂。
テレビの画面が、鮮やかに、新しい年に切り替わる。
**そして、新しい歳へ。**
(親愛なる作者様。どうか、あなたの物語の炎が、この冬の寒さに負けず、また新しい年へと、明るく灯り続けますように。蜜柑の皮の繊維のように、面倒くさいささくれも愛しつつ、今年もあと少し、走り抜きましょう。)
