第2話 加護の布石⑤ - 魔族の秘密会議
これは伯爵令嬢グレイス・アシュルムが婚約破棄を言い渡される前日のこと。
魔王城、会議の間。
魔族たちが黒曜石の長方形テーブルを囲んでいた。
最奥に座するは魔王。
漆黒の長髪から湾曲して伸びた二本の黒角、常人の倍はあろうかという巨躯、そして灰色の顔から放たれる紅き眼光が、そこにいる者すべてを威圧していた。
黒鉄色の鎧とマントには金銀の装飾が施されており、その魔王然とした風格を前にすれば、いかなる者もひれ伏すしかない。
「報告せよ」
ただひと言。その言葉だけで会議は動き出す。
最初に口を開いたのは魔族幹部の四天王第三位、智将バトスだった。
黒いローブから伸びた骨ばった両手を、シワだらけの長面の前で組み合わせながら報告を始めた。
「先刻、レプブリク共和国に滞在していた勇者一行が魔王国に向けて出発したことを確認しました。道中の峡谷に巨大な落とし穴を仕掛けており、勇者たちが落ちたところに配下の下級魔族たちが大岩を落とす算段となっております」
「智将殿の策はずいぶんと原始的だな」
そう茶々を入れたのは四天王第一位の魔王子ユースだった。
彼は魔王の息子であり、それゆえ魔王に似た風貌をしているが、体の大きさは並である。角も父に比べて短い。
しかし父譲りの覇気があり、彼には智将バトスも平伏するしかない。
「ユースよ。おまえも報告せよ」
父からのお達しに、魔王子ユースは一礼して語り出した。
「はい、父上。勇者も所詮はサーイント王国の手駒に過ぎません。ゆえに、私はピギーとともに内部から王国を支配する計画を進めております」
名前が出たことで、四天王第四位にして紅一点のピギーが魔王に向かって頭を下げた。
彼女は真紅の長髪と白い肌、そして左目尻にある泣きボクロが魅惑的で、笑うとその妖艶さが際立つ。
胸元が大きく開いたラメ入りの赤いドレスは、彼女の魅力を最大限に引き出していた。
「次、暗黒騎士」
魔王に名指しされたのは、四天王第二位、漆黒のフルプレートアーマーの男である。
彼には名前がない。ただ「暗黒騎士」と呼ばれている。
「我は正面から迎え撃つのみ」
暗黒騎士は戦うことだけを存在意義とする武の化身で、四人組の勇者パーティーとひとりで渡り合った猛者である。魔王からの信頼は厚い。
「うむ、よろしい。では、それぞれの役目を果たしに行け」
会議が終わり、四天王たちは素早く会議の間を出ていく。
魔王子ユースもピギーを伴って出ていこうとするが、魔王がそれを呼びとめた。
「ユース。王国には聖女がいる。加護の力は絶大だ。留意せよ」
「わかっております。それについても策は万全。心配無用にございます」
血に染まるような真紅の瞳に不安の色をたたえる魔王に対し、魔王子ユースは同じく真紅の瞳に燃えるような自信をみなぎらせ、それを誇示するかのように、マントの下に畳んでいた黒翼を大きく広げた。
次の更新予定
加護を持つ聖女の私に婚約破棄を突きつけた王子、世界に「ざまぁ」される 日和崎よしな @ReiwaNoBonpu
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