「食われる影」

人一

「食われる影」

「いや~昨晩も上々上々!」

俺は飲み会によく行く。

そして俺には、特筆すべき能力がある。

それはお酒の場で、持ち前のコミュ力を発揮して誰とでも仲良くなれることだ。

野郎はそこそこに、女の子が特にだ。

昨晩も新しくできた女友達と仲良ししていた。

俺の人脈はとめどなく広がっている。


今晩もお酒の会がある。

というより自分でセッティングした。

今回は学部でも話したことのない、地味な奴らに声をかけて回った。

あまり期待できないが、こういう中に意外と"掘り出し物"があったりするもんだ。

どこか挑戦的な気持ちで、ドキドキしながら居酒屋へ向かった。


「うぃ~おつかれ~」

「ん?あぁ来たか。もう始まってるぞ。」

「いいの、いいの。というより何人来てる?」

「3人。思ってたよりも来たな。」

「おお!そうか。どれどれ……」

柱の影からこっそり座敷を見る。

場を持たせている友人の向かい側に女の子が3人座っていた。

いかにもな地味系、無理してる感ありすぎる地雷系、そして赤いフードを被り、食事にも飲み物にも全く口をつけてなさそうな子。

三者三様だが、ターゲットはすぐさま決まった。

「なぁ、俺あの端の"赤ずきんちゃん"な。」

「はいはい、言うと思ってたよ。

じゃあさっさと合流しようぜ。」


「おつかれ~」

「おっ!ようやく来たか、遅いぞ。

みんな、こいつが今回の発起人だ。」

「じゃあみんな揃ったことだし……乾杯といきますか!」

「「乾杯!」」


数時間後。

縁もたけなわ。

思いのほか飲み会は盛り上がった。

男どもの腕の中には、顔を真っ赤にした女の子がいた。

俺の赤ずきんちゃんの表情は見えないが、ちびちび飲んでいたしまぁ酔っているだろ。

「じゃあ、また明日な~」

「うぃ~」

俺たちはそれぞれの方向に消えて行った。


赤ずきんは俺の腕の中で大人しく着いてきている。

何を考えているのか分からないが、そうこうしている内にホテルの前に到着した。

「あぁ~酔っ払った~もう歩けそうにないから、休憩しないと~」

わざとらしく言うが、返事は無い。

否定も肯定も何も無い。

……返事をしないってことは、OKってことだよな?

俺は肩を抱いたまま、ホテルに入った。

――じゅるり

「ん?何か言ったか?……いや気のせいか。」


俺は部屋に入るなり赤ずきんをベッドに寝かせた。

やはり抵抗されない。

部屋は薄い赤紫の間接照明がついており、ムード的にも最高だ。

ついつい興が乗ってワインを購入してしまう。

サイドテーブルに置きながら、彼女にまたがる。

ゆっくりシャツを脱ぎながら、彼女に覆いかぶさろうとした。


――その時。

彼女は閉じていた目をパチリと開いた。

そしてサイドテーブルのワインを掴んだ、かと思えば俺の側頭部に向けてフルスイングした。

片手で躊躇うこともなく。

揺れる視界を最後に、俺の意識は

暗闇に沈んでいった。


頭が痛い。

それに何故か動けない。

とりあえず自分の体に視線をやると、全裸だった。

さっきまでは服を着ていたはずだが……酔ってるのか正しく思い出せない。

その上俺の手足は、拘束具で固定されていた。

ベッドの上で全裸にされ大の字に固定されている……なんとも間抜けな状況だが身動きがとれない。

――そうだ、赤ずきんは?

周りを見ると彼女はベッド脇に座っていた。

彼女の前には、皿とナイフとフォークが用意されていた。

……俺を"オカズ"に何か食べるのか?

そう思ったのもつかの間、彼女はナイフとフォークを手に取った。

そしてそのナイフを俺の脇腹に滑り込ませた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!う゛ぁあ゛あ゛……痛え、何してんだ!この野郎が!」

凄まじい激痛に襲われている。

今まさに、自分の脇腹が切り取られているのだ。

涙で視界はボヤけ、痛みのあまりもう呂律も回らない。

彼女は切り取った俺の脇腹を皿に乗せた。

俺の1部を1口サイズに再度切り分け、1片を口に運んだ。

赤いフードを深く被った彼女の表情を伺うことは出来ない。

それでも、美味いものを食った時に自然と笑顔になるように彼女の口角も上がっていた気がした。

皿が空になった。


シーツ、皿、そして彼女の口周り。

赤くベッタリと汚れている。

――じゅるり。


赤ずきんちゃんの手は止まらない。

目の前にご馳走があるのだから。


悪いオオカミはやっつけないといけない。

遠い昔、おばあちゃんにそう教えられたのだから。


赤く染まった部屋の中。

1人の少女は、手を合わせて言った。

『ごちそうさま』

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「食われる影」 人一 @hitoHito93

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