化け物に呪い
橘 織葉
化け物に呪い
私の生まれ育った村は異常だった。
私がまだ小さい頃、住んでいたところでは一ヶ月に一度の頻度で、怪異が起こっていたのだ。
その怪異とは、村に"化け物"が現れること。
私も幼い頃見たことがあり、化け物の肩に蝶が止まっていた。
そして、村の人々を捕まえ、縛り上げる。
場合によっては何日も見つめられ、食料を与えられぬまま亡くなることも。
その化け物が出た時は、村の猟師が銃で対処する。
化け物などと言っているが人間のように脆く、簡単に対処できた。
そして、私は今、都会に引っ越している。
あの村は田舎で不便だったし、仕事も農業か猟師しかない。
引っ越してからは、忙しくてこんなこと考えもしなかったが、道路の奥に居る「それ」を見て、思い出した。
幼い頃会った化け物の肩に付いていた……"蝶"
真っ黒な蝶で、以前見た時よりも黒くなっているように感じる。
そして、その蝶が前を通る同僚の肩に着き……
同僚が消える。
いや、正確にいうと、
"同僚の名前"がわからなくなった。
…………………。
……あれ? この人だれ?
そもそも人じゃない。
化け物____!
そして、化け物に押し倒され、見つめられる。
『な……ま…え』
名前?
名前なんか知らない!
やばい。名前を言わないとやばい気がする。
理由などないが、本能が危険と告げている。
「幸助!」
気がつくと、声が出ていた。
幸助、というのは咄嗟に出た名前だ。特に意味はないし、化け物の名前も知らない。
しかし、化け物____だった者は、同僚に戻る。
「あれ? ここって?」
同僚が首を傾げる。
もしかして覚えてないのかな?
「幸助さん! あなた今……」
あれ? 何を言おうとしたんだっけ?
「なんですか?」
幸助は後ろに振り返り、不思議そうな顔をする。
……まあいいや!
忘れちゃったし。
「そうでした!
ゆうなさんの家でパーティーするんでした!」
「あ、そうだったね!
急いで帰ろ!」
そういい、二人はなんの違和感もなく帰る。
そして、木からゆうなを見つめる影が一つ。
その影は____
……あれ? 僕の名前なんでしたっけ?
僕はこの小説の語り手で、ゆうなさんを見つめる陰____蝶を見ていた。
それから、今その蝶に肩に止まられて。
あれ? 僕の名前なんでしたっけ?
名前、名前……名前名前名前!
名前が欲しい。
『蝶に肩に止まられた』? そんなことはどうでもいい。
あなた、僕に名前つけてください?
あの蝶が空へ羽ばたく。
その姿は、さらに黒くなって____
いや、羽が「名前」で埋め尽くされていた。
化け物に呪い 橘 織葉 @To1123
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