第3話

次の日、三咲さんは会社を休んだ。木村とのプレゼンは無事に済んだが、三咲さんが休んだのは私が知る限り初めてだった。部長に聞くと風邪との連絡はあったらしい。降り続く雨の中、私は図書館の返却日も気にしながら読書を求めてプラウダに向かった。

 マスターは私にロシアンティーを出した後、「昨夜のお連れの方は大丈夫ですか?」と聞かれ、私はびっくりしてしまった。

「何故ご存知なのですか?今日会社休みました。」

マスターは「それは大事にしていただきたいですね。明らかに風邪気味に見えましたので。」と返すと特にあとは気にすることもないようにカウンターに戻って行った。風邪気味?全く気がつかなかったが。私が相当鈍いのか?チェーホフならどう思うのかな。と我ながらおかしな事をふと考える。リアリズム的な語りをすると「だって、ボルシチを食べてもしないうちに顔が赤らんで見えただろう。明らかに風邪だったのさ。」と言う感じか。確かに間接照明の下でもそうは見えた。


 次の日は晴れた。しかし、三咲さんはこの日も会社を休んだ。私は心配になりお見舞いメ-ルを出すともう少し休むかもしれないとのメ-ルが来た。お見舞いに行きたいので住所を聞くとすぐに返信があり、あのボルシチをテイクアウトして持ってきてほしいとも言われる。食欲はあるようでホッとした、と返信し夕方訪ねると、三咲さんはとても嬉しそうに迎えてくれた。

 半年後、私は相変わらずだった。でも仕事には少し自信がついてきていた。仕事が終わると、しばしばプラウダに向かった、特に雨の日の夕方には。マスターとは更に仲良くなっていて、彼は人の観察力はあるけど、人心の理解とか特別な能力はないこともわかった。妻からの電話もプラウダに直接かかってくる。

「愛川君、今日は早く帰るのよ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつもの駅を越えて歩いた先には… @kakeru-naka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画