その先、北極点

逢坂らと

その先、北極点

「ではみなさんは、

 これがほんとうは何かご承知ですか」


先生は黒板をさして、皆に問いかけた。

 

サントスはあえて手を挙げなかった。


「サントス、

  本当はわかっているんでしょう。」


サントスは口を閉ざす。


「……うーん。

では、カルレアさん」




「はい。

   それは星です」



正解だ。皆はカルレアに拍手した。


立ち上がって拍手する奴、

お世辞ばかり言っている奴もいた。


きゃー。カルレア様かっこいいわぁ


ほんと、完璧よね


最高の人間だわ


ブラボー!


ブラボー、カルレア。



カルレアそっちのけで板書を取る奴は、

サントス以外に1人もいなかった。


サントスはカルレアが心底嫌いだ。


昔から、嫌いだ。


頭が良いことを隠そうともせず、

むしろひけらかしている様にも見える。


カルレアのその身なりや

行動、言動、そしてその笑みは

まるで聖人君子だ。



おまけにカルレアという奴は、

サントスのことを友人だと思っていた。


とんだ勘違いだ。


お人好しにも程がある。






サントスはカルレアが嫌いだ。



だが、ある日事件が起こったのだ。


サントスの天文学の教科書やノートが

失くなっていたのだ。


サントスは一度、カルレアを疑った。


嫌いだから、というよりかは

サントスにやましい事があったからだ。


カルレアは僕に怒ったのだ。


サントスは思った。


今までサントスはずっと

カルレアに嫌がらせをしてきた。


だからカルレアはそれを恨んだのだ。


カルレア虐めの犯人がサントスなのは

誰もが知っている。

カルレアを虐めようと思う人間は

サントスしかいないからだ。



やばい。


サントスはカルレアが怒ったのを

一度も見たことがなかった。


やばい。


カルレアはそんなことを言ってくるだろう。


先に謝るべきだろうか。


でも、僕は悪くない。


何も悪いことはしていない。


でも、謝った方がいいかもしれない。


サントスは久しぶりに

そんな感情を抱いた。


人に謝るのなんて何年ぶりだろう。






その夜、サントスはカルレアに謝った。


そして、全てを話した。


しかし、カルレアは「自分はやっていない」

と言った。


驚いた。ただ、驚いた。


今までサントスが行ったことに

カルレアは一つも怒ってないのである。


仮に今まで彼は事実を知らなかったとして

真実を聞かされた今、

彼はこれっぽっちも怒っていないのである。


サントスは全てを話して

謝ったことに後悔をしていなかった。


普通の人間なら、すべてそうでなくても

心のどこかでは真実を告げた自分を

ちょっぴり後悔するだろう。


「これが反省ってやつだよ」


サントスの耳にはそう聞こえた。



うん。



サントスの教科書やノートは

ビリビリに破られ、

ゴミ処理場へと運ばれていた。


犯人は未だわからない。



けれど、サントスはクラスに溶け込んだ。


今ではとっても仲の良いクラスになった。


先生はほっとしている様だった。


この前はみんなで公園に行った。


パンやお菓子をみんなで食べた。


サントスはクラスの一員だ。


そしてそのクラスのメンバーに、

サントスの文具を捨てた人たちがいる。

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その先、北極点 逢坂らと @anizyatosakko

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