第九話『魂の彷徨う場所』

「ここが『メネスのほこら』……」



 剣士ケビンたち一行は授業クエストの目的地である『メネスのほこら』に到達した……のだが……。



「これがほこら……?粉々じゃないですか!!」



 魔術師アルミラの言う通り。出立前に写真で見たほこらは粉砕されていた。この『メネスのほこら』はいにしえの武人を祀ったほこらだという。



 保護者役のアフロ侍ショウジローは静かに分析する。石片を見ると、粉末になるまで細かく砕かれている。



 竜巻や雷でもこうはならない。しかも、この『メネスのほこら』は魔術の結界が施されていたはずだ。



「……ふむ……これは自然に砕けたんじゃないな」

「こんな真似ができるなんて……一体、誰の仕業だ?」



 この作為さくい的な破壊痕はかいこん。相当な術師が絡んでいると見た。そもそも最近の『迷宮学園』では、様々な異変の報告が絶えない。


  

 ……まあ、それ自体は日常茶飯事で何らおかしい事ではないのだが……一日くらい平和な日は無いものか。



『……なんじらか。我の眠りを妨げるのは……』



 その時、空間を包むように声が鳴り響く。それは禍々まがまがしく、つ憎しみと悲しみに満ちていた。



 その声に背筋が凍る三人。そして何者かがケビンの足をつかむ!!



「……う、うわわわわっ!?」

「ケビンッ!?」



 そのままケビンを遥か上空へ投げ飛ばした!!受け身も満足に取れないケビン……これはケビンのレベルの低さが悪い。



 そこに薄ぼんやりとした霧が人影として収束していく。そして鎧を着て、青龍刀を手にした武人の影が形成された。



「何だコイツ……幽霊ゴーストか!?でも今の腕力、異常だったぞ?」

幽霊ゴースト!?いや……いや!!ありえないわ!!だって……」



 ミカサ女史の話では、今回は幽霊ゴーストのような古典にしか出ない怪物モンスターなどは登場しないはずだった。



 しかも近年の研究では幽霊ゴーストの正体は、ちり上の怪物モンスターの集合体であったり、粘液系の怪物モンスターが擬態している場合が大半だ。



 それでも存命の生物と比較すると、再現率はお粗末なもの。言葉を発するものなど、見たことも聞いたこともない。



 では……今、目の前にいる幽霊ゴーストは一体何なんだ?



「……ん?」



 ショウジローは草葉の陰の怪物モンスターの群れの死骸を見つけた。それはオークの集団。少なくとも十体以上はある。



 オークとは豚の頭部と人間の体を持つ巨人。怪力で知られるが動きは鈍い。確かに今の三人には適切な相手……だったが。



「このオークの群れの死骸しがい……本来、拙者たちが退治を依頼されていたのは……多分、こいつらだ」



 このオークが生きていたら、この三人でも骨が折れただろう。だが、オークたちの死因とされる傷は太刀傷だ。中には肉厚なのに両断されているものもいる。まさか……、



「……この怪物モンスターの死体の山、お主がその青龍刀でやったのか?」

『いかにも。我の眠りを妨げるものは全て斬り払うのみ』



 この幽霊ゴースト……相当のレベルだ。今の我々には手に余る相手。あの冷静だったショウジローでさえ、ほほに冷や汗が伝う。



「あなた……武将『方明君ほうめいくん』ね?話は聞いてるわ」



 この迷宮学園には千年以上の歴史がある。その歴史の中では疑似国家が組織されたこともあった。判原ハンバラの国の武将、方明君ほうめいくんもその国に仕えた歴史上の人物だ。



如何いかにも。お主らも立ち去らねば、この青龍刀の錆にする』

いにしえの武将か……これは荷が重い相手だぞ……ミカサ女史」



 ショウジローは困惑しながらも刀に手をかける。しかし、方明君ほうめいくんの様子がおかしい。手にした青龍刀を地に突き立て、



『ミ……カサ?今、ミカサと申したか?』

「ん?そうだが……まさか知っているのか?」



 方明君ほうめいくんの口調が明らかに変わる。穏便になるなら良かったが……。少々、怒気が強まったような気がした。



『おお……ミカサ……何と……お前たちはあの女の使いか?』

「そうだ……彼女の知り合いならお主と戦う理由は無い。再び丁重にとむらって新たな墓標も立てる。事を治めてはくれぬか?」



 正直、勝ち目のない戦い。ここで手を引いてくれれば、それに越したことはないのだが、



『そうは……いかぬ!!』

「な……何て霊気だ。恨みの強さが伝わってくる……!!」



 場の空気は瞬時に凍り付き、方明君ほうめいくんの後ろにどす黒い霊気……いや、妖気が漂っている。



『我は……あの女の料理を食して、命を落としたのだからな!!』

「「……はあ!?」」



 ……計算が合わない。ミカサは明らかに三十代の女性。それに代わって方明君ほうめいくんは何百年も前の武将だ。



『嗚呼……憎たらしや、ミカサよ。死した我をとむらうでも無く、このほこらに押し込めて封じたのだからな!!しかも我の魂は物の怪と化し、終いにはこの有様よ!!これを恨まずしてなんとしよう!!』



 ほこらの破壊。新種の幽霊ゴーストの発見。つじつまの合わない年齢。分からないことが多すぎる。だが、とりあえず言えるのは、



「ショウジローさん……何だか、この人かわいそうだわ……」

「ミカサさん……あの人、本当に何歳なんだ?」

「……この御仁は許してくれそうにもないぞ。覚悟を決めろ!!」



 この戦闘は避けて通れそうもない。高をくくる三人。ぶんぶんと青龍刀を振り回す方明君ほうめいくん。疑惑の答え合わせはその後だ。



『東国……判原ハンバラの国が将軍、方明君ほうめいくん!!押して参る!!』

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迷宮学園ってこんなとこ はた @HAtA99

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