第八話『そんな彼に足りないもの』
「うーん……」
アルミラにはある疑問があった。いや、疑問と称するのはどうなのか?彼女の異変に気付いたショウジロー。
「どうした、アルミラ嬢?昨日のミカサ女史の料理で腹痛か?」
「いや……それもあるんですけど」
「それもあるのか。そして類に漏れず……拙者もだ」
今でもあの旅立ちの夜は地獄だった。いや、地獄という名すらも
「あの料理は……この世のものじゃなかったですね」
思い出すだけで顔に影が落ちる。昨夜の席で冷静さを保っていたように見えたショウジローも例外ではなかったらしい。
「うむ。おかげで昨夜は眠れなかった。昔、彼女の料理は仲間内では『死神の鍋』と呼ばれて恐れられていたという」
「ホントですか!?……うん。うん……あの味なら納得です」
今でもお腹の調子は最悪だ。何をどうすればあの味になるのか。焦がしただけならまだマシ。まさに錬金術と言える。
「……あれ?何の話でしたっけ?」
「おや?なんでミカサ女史の料理の話になったんだ?」
いつの間にかミカサの料理の話になっていた。本題はそこではない。路線を元に戻したのはアルミラだった。
「ああ、そうそう。私の疑問でしたね」
「うむ。そうであったな」
先程、異常なまでの活躍を見せた剣士ケビン。だが、そこが
だが良い剣を使ったとはいえ、先輩でも斬れない甲殻虫を斬り刻んだのは目の当たりにしている。そこに矛盾が生まれた。
「先輩でも斬れない甲殻虫を斬れるケビン……ということは先輩よりも強いってことですよね?」
「いや、そうとは限らんぞ。ケビンには足りないものがある」
「足りない……もの……ですか?」
ショウジローの言葉はアルミラの疑問の答えに繋がる。それは剣士の『真の腕前』に通ずるものだ。そこに、
「おお。こんな時に良い題材の
頭には笠を被り、顔は手書き。着物を着ている体は、竹の棒で十字に組まれている。そう。かかしがそのままが動いている。
「……かかし兵ですね……一番弱い
この学園の生徒……いや、外界の冒険者たちにおいても、まず戦うのがこの『かかし兵』である。
農民でも倒せるくらいの強さと言えばわかりやすいだろうか。それなら素人剣士でも楽々倒せる。しかし、
「よーし!!今日は調子良いから俺に任せとけ!!」
「ちょっと……!!あ、行っちゃった」
調子に乗っているケビンがかかし兵の群れに飛び込んでいった。それを追いかけようとしたアルミラをショウジローは制止する。これは彼の真価を見るいい機会というのが先輩の魂胆だ。
「アルミラ嬢よ、よく見ていると良い。彼の真価が分かる」
「……えー?そうかなぁ……?」
ケビンは一太刀でかかし兵を斬り倒した。だが、すぐさま背後のかかし兵の回転打撃に頭をはたかれる。
斬っては別のかかし兵に叩かれ、斬っては別のかかし兵に叩かれの繰り返し。ケビンの動きは誰から見ても
「あれ?意外と苦戦……してるのかな?何で?」
ショウジローの見立ては当たっていた。ケビンには決定的に剣士の『基礎』が足りていない。
「予想ではあるが、あの少年は斬る事しか鍛えてこなかったのだろう。そのせいで気配も読めていない。先読みも出来ていない。身体能力も並。ランクEは相当だ」
確かにケビンの動きは大したものではない。その様子を見てアルミラはどこかホッとしたというか、優越感を感じていた。
「なるほど……じゃあ、私の見立ては間違ってなかったのね」
それにしても、かかし兵相手にここまで苦戦するとは。これでは先が思いやられるではないか。
「おーい!!二人とも!?さっきから応援が無いんですけどーっ!?」
業を煮やしてケビンは救援を求める。まあ、情けないというか何というか。二人はやれやれという表情を浮かべ、
「これで拙者が同伴を依頼された理由が分かった。行くぞアルミラ嬢。こんな相手に手を焼いてる場合ではない」
「はい!!」
自然と駆けつけたアルミラに背中を預けるケビン。ボコボコにされて足に来ている……かかし兵相手に……まあ……。
「ふふんっ。全くもう……世話が焼けるわね」
「……アルミラ。俺の苦戦がそんなに嬉しいか?」
もう露骨に表情に出ているアルミラ。これで間違いなく借りを作れる。それが嬉しくてしょうがない様だ。
「いーえ~?そんなことは無いわよ~」
「目が笑ってんだよ。……これだからなるべく、
「さ、先を急ぎましょう!!あー……いいもん見た」
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