4.#婿は誰だ

 当然、地元から離れていく決意に、また父が『許さん!』と大反対。そんな父を一発で黙らせる文句を美蘭は準備していた。


「プロサッカー選手の妻だったとしても、夫に付いていくと思う!」


 案の定、父が怯んだ。

『もし娘がサッカー選手と結婚したら~』なんて、酒を飲みながらのたまっていたことを美蘭は覚えている。己の夢物語の現実を思い知れ。そうしたら本当に思い知ったのか父が項垂れている。

 少し心を傷めつつも、そこを見計らい、美蘭は逃げ出すように実家を後にする。


 彼は球団の独身寮に入り、まずはチームに慣れる方針。美蘭はいままでの貯金を切り崩しつつ、アルバイトでもなんでもやっていくつもり。北国で暮らせることにわくわくしている。

 契約を終えて瀬戸内に帰ってきた宇汰が、そんな美蘭を見てほっとした顔をしていたのも印象的だった。

 自分についてきてくれるからと、彼も忙しいのに美蘭のアパートで引っ越し荷造りの手伝いをしてくれる。


「なんだかんだ言って。美蘭ちゃんは、お父さんにそっくりだよ」


 恋人が零した一言に、今度は美蘭が思い知る。

 うん、知ってる。私も頑固で融通が利かない、熱血突進タイプだもんね――と。


「球団との合同BBQの時。野球関係者ばかりなのに、美蘭ちゃん、サッカーユニフォームを着てきたんだよな。めちゃくちゃ目立ってた」

「あれは……。私の持ちネタっていうか。ほら、父がサッカーファンでミランから美蘭という名になりました~という自己紹介のためで」

「スポーティーなのに女の子らしくてハツラツしていて。野球のことも詳しかった。野球ばっかりだった俺には、初めてほっとできる女の子だった」


 もうすぐ別れる海を宇汰が見つめている。彼との出会いを思い出して、美蘭も見慣れた海へと視線を馳せる。

 これまでも彼と同じ方向を見てきたつもりだ。


「お父さんが熱狂的なサッカーファン。美蘭ちゃんと結婚するなら、乗り越える壁だと覚悟していたよ」

 彼の目が美蘭へと戻ってくる。誓いを立てる真っ直ぐな視線が届く。

 海色の窓辺、筋肉がついている逞しい腕で彼が抱きしめてくれる。


 ホームラン王になれなくても……。

 一軍で活躍すれば父はきっと認めてくれる。


 出来る男は、チャンスを逃さない。

 掴み損ねないための力を、チャンスが来た時に持っていなくてはならない。

 だから何も無いときでも努力をしている者が掴む。

 その一瞬を。ほんの一瞬を逃さない。


 私の宇汰は、そんな男だって、美蘭は信じている。


 そのチャンスを、お騒がせ監督が差し出している。

『結婚の許しを得るため、その男をホームラン王にすべく打席に立たせる』――と。


 SNSに変なハッシュタグが踊り出す。


#監督私物化か?

#カシオペアーズ 誰が婿候補


 母から『レイジ監督が始めたことに、お父さんが狼狽えている』という極秘情報を美蘭は得る。


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2026年1月18日 16:00
2026年1月18日 16:00
2026年1月19日 16:00

マリッジ・スイング ~婿になりたいなら、ホームラン王!~ 市來 茉莉 @marikadrug

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