愛は、腐るのが早すぎた

アビス

第1話

朔、この女だれ?」

 「……え?」

 「私以外と話さないって、約束したよね」

 「あ、ごめん。その人は――」

 「うるさい!うるさい!うるさい!」

 彼女の声が、ガラスのように割れていく。

 「この写真、見て! 一緒に話してるよね。私、ずっと見てたから……わかるよ」

 「紗代、その人は僕のお姉ちゃんだよ」

 「……え?」

 「嘘だ、嘘でしょ。そうやってすぐ嘘つく。朔は、嘘つきだね」

 「違うよ紗代、信じて」

 「無理」

 その瞬間、彼女の手の中で刃が小さく笑った。

 「ねぇ、私以外の女と一緒にいるなら……もう、ずっと二人でいようよ?」

 「紗代、落ち着いて。大丈夫だから。僕には紗代しかいないんだよ」

 「……ほんと?」

 「安心して。心配させちゃって、ごめんね」

 彼女は僕の腕の中で、赤子のように泣き崩れた。

 そして僕は小さく息を吐いた。

 「フッ……やっぱり、こうなるんだね」

 ――紗代、僕と君は、ずっと一緒なんだから。

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