エピローグ 指切りしたからね!
再び駅の方に戻りながら、途中のお花屋さんで花束を作ってもらう。白いお花は何度も見てきたから、たくさんの色を混ぜてもらった。
その足で今日のもう一つの目的地でもある徹くんが眠るお墓に向かった。
今日は誰もいない公園墓地。箒と手桶と柄杓を借りて、お水を入れて進む。
ここも存在を知っていながら、4年間一度も来ることができなかった場所だ。
目的地に着いて、お墓の周りを掃除してお花を飾り、お家で頂いてきたお線香に火をつける。
「どう? そっちの生活にはもう慣れた?」
見上げる今日は雲一つない青空だ。そこに白い煙がうっすらと昇っていく。
「見ていてくれたよね。ご両親にもご挨拶してきたよ。それと、これ……。なんで言ってくれなかったの? サプライズにしようと思っていたんだとしたら、やっぱりどっかドジなんだから……。でもありがとう。ずっと大事に使わせてもらうね」
先月までは返事が返ってきたのに、今日の言葉は文字通り私の独り言だ。
でも、それでいいんだ。これが本来の私たちの姿なのだから。
ここに来るまで4年も経ってしまったけれど……。今度からはここに場所を変えればいい。声が聞こえなくても、私はここで気持ちを伝えればいいんだ。
「徹くんのことが大好きだよ」と。
私がここにいることを徹くんは空の上から見ているに違いない。それは確信でもあった。
だから、あの見送りの日にちゃんと言えなかった言葉を告げよう。
「必ずまた会おうね。それまではいろんな報告もここに来て言うから。見えなくなっても約束は守る。だから指切りげんまんだよ!」
青空に向かって右手の小指を突き出す。
ふふっ、徹くんは驚くかな。私の右手の薬指に細い指輪があることを。
これも雑貨屋さんで見つけて一人で買ったシルバーのシンプルなものだけど、女の子が右手の薬指に指輪をするのは、「好きな人がいます」のサイン。
これがあるから、私はもう「誰にも手の届かない人」に予約されていると周りも認識しているみたい。
「こっちじゃ無理だけど、私がそっちに行ったら迎えに来て、今度こそ『石原佳織』にしてよね?」
今と一文字違うだけだけど、その意味はとても大きいんだよねって話していよね。
それまでまっすぐ昇っていた白い煙が、一瞬だけ静かな風に流されて乱れる。
徹くんが返事をしてくれた。そうとしか思えない。
ちゃんと約束は守る。頑張るけれど、時々は涙が見えるかもしれない。それはあなたを思ってのことだから、心配しないで大丈夫。見守っていてね。
「じゃぁ、また来るね!」
借りた道具や荷物を片付けて、少し傾きかけた午後の光の中を自宅に向けて歩き出した。
私が秋空を見上げるとき 小林汐希 @aqua_station
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