食べ物の階段
カゲカゲとかげくん
第1話 食べ物の階段
無限に続く階段が存在していた。階段を上っていくと、踊り場には必ず水と食べ物がそれぞれ一個ずつ置いてあり、階段を上れば上るほど食べ物の質は高くなっていった。
たとえば、最初は寿司一個だけがあったとすれば、100回も同じことをすれば、ハンバーガーに変わるみたいな感じだ。
彼もこの場所に最初に入ったときは、より多くの食べ物を得るために一生懸命階段を上っていた。だが、ここに来てからおよそ10年が経っており、もうこれ以上頑張らなくても十分な食料が手に入ったため、彼は昔のようには頑張らなくなっていた。
そんな中、彼は今日も相変わらず階段を上っていた。力を振り絞って長い階段を上ると、今日のご飯は美味しそうなソースが染み付いているステーキと白ご飯だった。
彼は今日も頑張った自分に感謝し、その食べ物を美味しく食い尽くしていった。ご飯を食べ終えると、彼は踊り場の中央に座り、しばらく間思案に沈んだ。
もう、この生活も10年が経っていた。最近はこれ以上食べ物の品質が劇的に変わることはなく、毎日ローテーションが変わる見たいに決まった食べ物が提供されるだけだった。彼はそういった状況に飽きており、新しい変化を求めていた。そこで彼が思い付いたのは、今まで上ってきた階段を降りるという選択肢だった。
彼は今まで階段の逆の方向に行ったことがなく、そもそも階段を降りるということについて考えたこともなかった。階段を上れば食べ物が出てくるし、それが当たり前だと思っていたからだ。
だが、問題はようやく階段を下るのを思いついても、また食料が出てくるかどうかは不確かで、下に行くまでどれぐらいの時間がかかるか、またこの階段に終わりが存在するのかも分からないという点だった。
しかし、そのような不安にも彼は屈服せず、自分の考えをすぐ行動に移した。彼は階段を上って踊り場に置いてある食べ物をできるだけ一つの白い皿に詰め込み、ズボンの両ポケットに水ボトルふたつを入れて長い旅のための食料を調達した。
準備が終わると、彼は迷うことなく、階段の下に向かって走り出した。
階段を下りながら、彼は一番下にたどり着くのは、最短でも5年はかかるだろうと予測した。階段は上るより、下る方が早いからだ。
彼はひたすらこの空間の一番下に着く自分の姿を想像しながら、階段を降りていった。無論、彼も今のこの挑戦が命懸けの冒険であることは知っていた。食料が全部つきるまで到着できなければ、死に至るのは時間の問題だったからだ。もし、途中で心が変わってまた階段を上ろうと思っても、その時はもう食料はないので、何倍の努力を費やすことになる。多分、生き残るのは難しいだろう。
だからこそ、これは上るか下るか一つだけを選ばなければならない、片道ゲームみたいなものだった。
彼は、普段食べている量の何十分の一を食べて生命を維持しながら、階段を下りていった。
進みながら、彼は疲れてたまに転びそうになったが、その度何とか気をしっかり保ち、階段を下りていった。
階段下りを決めてから約3ヶ月がたった頃、最初に持ってきた食べ物が底をつき彼は当惑したが、しばしば昔自分が残した食べ残しや全く手で触ってない食べ物が踊り場にまだ置いてあり、彼はそれらを少しずつ自分のお皿に足しながら、命を延長していった。
そして、ずっと同じ生活を繰り返しながら、それから1、2、3年が過ぎていった。今までたくさんの試練と苦難があったが、彼はそれらにも耐え続け、約4年と数ヶ月経った頃に一番下だと思われるところにようやくたどり着いていた。思っていたより早く到着した事実に、彼は嬉しさを感じながらも、同時に目の前に広がる光が滲み出る扉を見つけた瞬間、体が硬直した。
ここの空間には神秘的な雰囲気が漂っていた。今まで感じたことのない不思議な気分。彼は少し怯えながらも自分があれほど頑張ったのは、全部この瞬間のためだったと心の中で呟きながら、扉に向かって歩いていった。
ドア越しの光の眩しさはますます強くなっていき、やがて彼はドアノブに手を乗せてそれを時計回りに回した。
ドアが開くと、立っていられないぐらい強い風とともに、一瞬だけ視野が白い光に飲み込まれた。唾をごくりと飲み込むと、彼の目の前に広がっているのは、小さな緑草が生えている広い野原だった。
彼は自分が見ているこの光景が信じられないという表情で、野原に足を踏み入れながら前に進んでいった。
地面が柔らかかった。ずっと固い階段の踏み面に慣れていた彼にとって今のこの瞬間は信じられないほど、美しくて素晴らしかった。この瞬間のためにあんなに頑張ったのではないかと思えるくらい嬉しかった。
思わず、彼は涙を流した。これは涙を流したくて流すのではなく、体が勝手にそう促していた。
しばらくの間、野原の上に立ち尽くしていた彼は、今まで感じたことのない暖かさで空を見上げた。すると、白い雲が浮いている青空に、暖かい日差しが差し込んでいるのが見えた。
美しい自然の光景に彼は感激の声をあげながらも、その時彼の目に入ったのは、目で全部納められないぐらい大きな風車だった。
彼は、なぜこんなものがここにあるのか少し疑問に思いながらも、とにかく今のこの瞬間を満喫した。
彼は、蝶たちが飛んでる野原の中央に走っていき、柔らかい地面に体を任せた。
仰向けで寝転んでいた彼は、青空に向かって手を伸ばし、太陽を掴むような動作を取った。まるで、この世界が自分のもののように思えた。
そうやって、しばらくの間幸せな時間過ごしていた彼は、長い間苦労していたせいか、目蓋が重くなっていき、目がだんだん閉じていった。
彼は、心の中では少し危ないかもと思いながら、今の暖かくて安楽な状況に身を任せ、深い眠りについた。
そして、彼がまた目を覚ましたときは、彼は階段が無限に続くところに立っていた。だが、その時の彼は、もうあのときの彼ではなかった。彼の記憶は削除され、新しい生命として生まれ変わったのだ。
彼は、何が何だか分からない状況の下で、階段を上り始めた。昔自分が同じ行動をしていたのはすっかり忘れて、ただ体の赴くまま同じ行動を繰り返した。
あとがき : この作品は繰り返される人の人生を文学的に表現して書いたものです。私たちは生まれてから死ぬまでずっと、同じことを繰り返しながら生きています。食べ物を食べ、働いて、寝て、また同じことを繰り返す。実は、人生とは反復の連続かもしれません。この作品はそのような思想を比喩的に表したものです。
この世の中に永遠はなく、嬉しさや悲しみ、空しさなどを得たり、避けたりするために人は繰り返し何かをやる、それが人生なんだと私は考えています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
食べ物の階段 カゲカゲとかげくん @KAGEKAGEtokagekunn
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