自己と現実の境界を揺さぶるディストピアSF

　アタヲカオ 様の『Red Genesis：異能補完研究所』は、静かな絶望と目覚めの予感が交錯する、唯一無二のディストピアSFです。御影遙たちが自分の記憶と魂の真実に向き合っていく——この物語は、ただの異能バトルやサイバーパンクにとどまらず、「現実」や「自己」を問い直す深い思想的冒険です。

　死と再生、転生と記憶の揺らぎ、仲間たちとの再会にじんわり胸が熱くなります。管理された社会の中で、なおも「生きる」こと、「自分で選ぶこと」の意味が静かに問われ、登場人物たちがそれぞれの過去と向き合う姿はどこか痛々しくも、だからこそリアル。

　現代社会の生きづらさや孤独、でも小さな希望を見出したい読者の心に、そっと火を灯してくれる一作です。管理か自由か、記憶か現実か——自分自身への問いかけを、ぜひこの世界で味わってください。