第2話 来ない人


桜が咲き誇る午後、バス停には今日も凛が立っていた。

蕾は少し遅れて到着し、彼の横に静かに立つ。

「また、ここに…?」

声は自然と出た。凛は小さくうなずき、目を閉じて風に舞う花びらを数えている。


「去年の春、ここで告白するはずだった人は、遠く遠くへ行ってしまったんだ。もう追いつけないほど。」

ぽつりと漏れたその言葉に、蕾は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

誰にも見せないような切なさが、凛の背中から漂ってくる。


桜の花びらが風に舞い、二人の間をふわりと漂った。

蕾は思わず手を伸ばして、一枚の花びらを受け止める。

——春が来るたび、同じバス停で同じ時間に立つ人。

その孤独を、ほんの少しだけ、私も見守ろう。


凛はふっと目を開け、桜の向こうを見つめる。

「今年は…来るかな」

その声は小さくても、確かに誰かに届くような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花びらに残る約束 @remontarte

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ