花びらに残る約束

@remontarte

第1話 桜を待つ人

春の午後、柔らかい風が頬を撫でていき、花びらを舞い上げる。


通学路のバス停にひとりの男の子が立っていた。 

肩に桜の花びらがひらりと落ちるたび、彼は何も言わずただ空を見上げている。


「誰か待ってるの?」

蕾は思わず声をかけた。

男の子はふと驚いた顔をし、そして小さく笑った

「去年の春、ここで告白するはずだった人さ。春が来るたび、また会えるかもと思って…」



桜の香りに混ざって、少し切ない空気が漂う。

蕾はその場を離れようとしたが、自然と足が止まった。

——こんなにも静かで、でも確かに誰かを待つ人がいる場所が、この春の街にあるのだと。


彼は何も言わず、また桜の花びらを見つめている。

蕾はそっと心の中でつぶやいた。

「私も、見ていよう…。」



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