藤嶌古書店10
私が『イワナベミズコ』の一種――“真っ赤な人”と遭遇した夜から、四日が経過した。
あの夜――ユーレイ君から授かった『イワナベミズコ』に対する対処方法。
“名前を名乗らない”
“会話をしない”
“拒絶を行動で示す(服を裏返しに着る)”
“威圧されても毅然とした態度を取る”
それらをSNSで発信した結果、反響は物凄いものになった。
「炎上してたね」
「うん……ネットで炎上なんて無縁だと思ってたけど、あんな感じなんだ」
藤嶌古書店。
窓際の席で、私はユーレイ君と向き合いながらそう嘆息混じりに呟く。
ユーレイ君はマスターの淹れたコーヒーを傍らに、今日は『世界宗教史』という分厚い本を読んでいる。
元々、『イワナベミズコ』に関する件でカルタの信者から苦言のメッセージはぽつぽつと届いていた。
だが、今回私がハッキリとSNSで、カルタの配信内容に対して“間違っている”と捉えられるような自説をポストした事で、本格的に彼等を敵に回してしまったらしい。
カルタ自身も、私を名指しこそしなかったものの、反論するような内容の緊急配信を行ったようで、ここ数日で私のDM欄は苦情のメッセージ塗れだ。
ただ――。
「でも、やっぱりユーレイ君の考察は合ってるみたいだよ。実際に“真っ赤な人”や、それっぽい不審者と遭遇したって人から、追い払うことが出来たって感謝のメッセージも届いてる」
SNS上でも、多くはないが私のやり方で危機を回避したというポストが散見された。
無論、炎上に便乗しての根も葉もないガセかもしれない。
そもそも、オカルト染みた怪奇現象にそこまで本気で取り合う人がどれだけいるのかわからないけど。
「それでも、これで河瀬さんみたいな『イワナベミズコ』の被害を食い止められてるなら、これ以上の成果はないよ。ありがとう、ユーレイ君」
「……別に感謝されるようなことじゃない。実際にその人達を救ってるのは方法を広めたライターさんでしょ。面倒な事にもなってるんだし」
ユーレイ君は手元の本から一瞬だけ目線を持ち上げ、そう言う。
「ところで、誹謗中傷ばっかり届いてる中であれだけど、最近どうなの」
「どう?」
「怪談収集」
ユーレイ君に問われ、私は「う~ん」と唸る。
そう。
私が『イワナベミズコ』の謎を追う上で最大の情報源としているのが、私の元に集まって来る怪談や目撃情報だ。
「カルタに話題を奪われた頃から、正直収集に難航してるんだよね」
私はSNSのDM欄を開く。
捨て垢からの誹謗中傷、感謝のメール、後はスパム。
それらばかりで、最近は新しい情報は……。
「……あ」
そこで、私は気付く。
私が“真っ赤な人”と遭遇し、ユーレイ君に助けられた、あの日の夜。
一件のメッセージが届いていた。
「どうしたの?」
「前に『イワナベミズコ』の目撃情報をくれた人から、また追加でメッセージが届いてた。色々バタバタしてたから、気付かなかった……」
私は、メッセージを開く。
お久しぶりです、M.starさん。
先日、知り合いが近所の心霊スポットで肝試しをして、そこで変な鏡を見付けてきたって内容のメールを送らせていただいた者です。
すいません、ちょっと気になる事があって。
お会いする事って可能ですか?
もしくは、ZOOMとかでカメラ通話とか。
実はあの後、例の心霊スポットで、またちょっと気持ち悪いモノを見付けて……。
また暇な時にお返事下さい。
詳細は、そこでお話します。
『イワナベミズコ』の怪談を聞かせてください。 機村械人 @kimura_kaito
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