後編

 クルリと僕達家族が一緒に住むようになって、数ヶ月が過ぎた。


 クルリも、この生活に慣れ始めたようだ。


 そんな家で、僕はソファに座りながらテレビを見ていた。


 戦争の状況が報道されていた。この国の隣には、魔族の国がある。


 最近、その魔族の国とこの国が戦争をはじめた。


 戦争と言っても、国境付近での小競り合い程度で、国の中央付近にある、この町には影響がない。


 普段通りの生活をしている。


 ただ、この国への留学生や働きに来ていた魔族は、差別や迫害、嫌がらせを受けているようだった。


「あの!」


 そんなテレビを見ていると、お風呂から出てきたクルリが声を出した。


「ちょっと!あなた!」


「あ!ごめん!」


 奥さんに言われて、僕はチャンネルを変えた。


「あなたとは関係ないわ!気にしないで!」


「うん!そうだよ!それに、こんな戦争すぐに終わるよ」


 僕は、クルリにそう言った。






 そんな事があった次の日、奥さんが寝込んだ。


「ごめんね!家事をお願いしちゃって」


「いえ、ゆっくり休んで下さい」


 クルリが奥さんに答えた。


「お母さん!大丈夫?」


「うん!大丈夫だよ」


 娘は、奥さんを心配していた。


「医者いった?」


 僕が、奥さんにそう聞いた。


「うん、ただの風邪だって!」


「じゃあ、ゆっくり寝てないと」


「ありがと!」


 奥さんは、はにかみながら、そう答えた。







 少しして、奥さんが亡くなった。


 ただの風邪だったはずなのに、あっけなく。


 僕は、いきなりの事で、何も考えられなかった。


 たぶん、娘もクルリも同じだったのだろう。


 娘は、まだ死ぬという事が理解できていないようだった。


「お母さん、どうしたの?」


 っと、不思議そうな顔をしていた。


 そんな時、クルリが娘を抱きしめていた。


 僕は、お葬式などの用意や手続きなどをする必要があった。


 そういう刺激に、勝手に体が反応して動いているようだった。


 そんな色々な事が終わって、僕達は家に帰って来ていた。


 娘は疲れて寝ていた。


「大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ」


 クルリの言葉に、僕は答えた。


「ウソです」


 そう言ってクルリは、僕を抱きしめてくれた。


 僕は、その温もりを感じて、大声で泣いた。


 クルリも泣いているようだった。


 僕達は、体を重ねあった。たぶん、寂しさを埋め合おうとしたんだと思う。







 クルリと娘との生活は、平穏だった。


 奥さんが居なくて寂しさはあるけど、何とか続ける事ができていた。


 数年程たったある日、クルリが妊娠した。


 僕は、彼女と籍をいれた。


 式は、子供が生まれてからする事にした。


「私、オネェちゃんになるの?」


「そうだよ!この子のオネェちゃんになるんだよ」


 クルリが、少し大きくなったお腹を触りながら言った。


 娘は、嬉しそうにして、クルリのお腹を触っていた。






 クルリのお腹は、日に日に大きくなっていた。


「ママ!行ってきま〜す!」


 娘は、幼稚園に行く年になっていた。


 いつのまにか、クルリを「ママ」と呼んでいた。


 奥さんの事は、「お母さん」と呼んでいた。


 たぶん、娘の中で違いがあるのだろう。


 奥さんへの思いなのかもしれない。


 深くは聞かない。







 お腹が大きくなったクルリが、家事が一段落したからか、ソファの横に座った。


「ねぇ、どうして僕と結婚してくれたの?」


 僕は聞いてみた。子供ができたからというのもあっただろうが、色んな事をひっくるめて聞いた。


「奥さんがいたから」


 クルリは、少し真剣な顔でそう言った。


「奥さんがいなかったら結婚しなかったの?」


「うん!たぶんしなかった!」


 クルリは、少し笑いながら言った。


「え?なんか複雑なんだけど」


「フフフ」


 クルリは、そんな僕の顔を見て笑っていた。


「奥さんは偉大だ!」


 クルリが結婚してくれた。


 今の僕の幸せをくれた。


 それは奥さんがいたからだ。


「そうなの!奥さんは偉大なの!」


 そう言って、クルリはまた笑った。






 僕達は、これからも幸せに生きていけるような気がする。


「これからも、4人で幸せに生きて行こう!」


 ある時、僕がクルリに言った。


「5人でよ!そうじゃないと奥さん怒るわよ」


 クルリが、ちょっと口を尖らせながら言った。


「そうだったね」


 僕は、素直にクルリの言葉をうけとめた。







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クルリ〜お母さんとママ〜 坂道冬秋 @huyuakisakamiti

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