8話 到着
「うおおおおおおお!!!!!! 」
俺の全身から放たれた『燼滅炎・烈火』が、津波となって押し寄せる鋼鉄の瓦礫と正面から衝突する。
灼熱の炎がコンテナの表面を溶かし、その勢いを殺していく。だが、あまりにも物量が多すぎる。後から後から迫り来る鉄塊に、俺の炎は徐々に押し負け始めていた。
腕が、足が、全身が悲鳴を上げている。
体内のエネルギーが、徐々に失われていくのが分かった。
それでも、炎を絶やすわけにはいかない。
俺が耐えている、時間が、勝つためには必要なのだから。
『――奏斗! 着いたわ! 分析を開始する!』
インカムから、怜の鋭い声が飛ぶ。
その声を聞いた瞬間、俺は躊躇なく炎の出力を最大まで引き上げる。
「―――っおおらぁぁあああ!!」
紅蓮の炎が巨大な爆発を起こし、眼前の瓦礫群を吹き飛ばす。
その反動で、俺の体はクレーンの上から弾き飛ばされ、地面へと落下していく。
受け身も取れず、背中からコンテナの残骸に叩きつけられた。全身を走る激痛に、意識が飛びそうになる。だが、最初の俺の役目は果たされた。
「頼むぞ……! 怜……!」
その頃、順と怜は『骸識』により虚獣の核を捉えられる位置に到達していた。
虚獣の足元、巨大なコンテナが折り重なってできた、絶好の死角。
「全神経を集中させる! その間、頼むわよ!」
「了解ッス! 俺が絶対に、守り抜きます!」
順は『応報の盾』を最大展開し、怜の周囲に強靭な防御フィールドを形成する。いつ、どこから瓦礫が飛んできても、怜を絶対に守り抜くシールド。
守られた中で、怜は瞳を閉じ、意識を研ぎ澄ませていく。
渦巻く骸粒子のノイズを掻き分け、その奥にある、虚獣の本体の中を探る。
巨大な肉体、その流れの中心、最も強く輝く点。それこそが、奴の命の源――『核』だ。
「……核の位置を捉えた! ――え!?」
しかし、すぐに怜は自分の能力を疑った。
彼女が捉えた核は、一つではなかった。
「核が……三つある!? 頭、右肩、左腹部……! そんな、馬鹿な……!」
この虚獣は、複数の人間が融合して生まれた特殊個体。そのため、核が三つ存在していた。
一つの核を破壊しても、残りの二つが無事なら、即座に再生してしまう。
倒すには、三つの核を、同時に破壊するしかない。
怜は、戦慄しながらも、その絶望的な真実をインカムで叫ぶ。
『奏斗! 聞いて! 奴の核は一つじゃない! 三つよ!』
瓦礫の中で、朦朧としていた俺の意識を、怜のその言葉が呼び戻す。
核が、三つだと……? クソ、融合体か。
まずいな、速く虚獣の元に、二人の元に向かわないと。
でも、身体が動かない―――。
『奏斗、奏斗! 返事無いけど、どうしたの!?』
火を出しすぎたせいか体温が上がりすぎてる。熱で身体中のいたる所の筋肉がぶっ壊れてる。
それに、さっき叩きつけられた時に肋骨かどっかの骨が折れてるかヒビが入ってる。全身に激痛が走っているせいで箇所の特定などできたもんじゃない。
「ハァ、ハァ……、動け……動け!!」
俺は、満身創痍の身体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がる。気を抜いたら今にも意識が飛ぶ。
その時、俺の網膜に怜から送られてきた三つの赤いマーカーが巨大な虚獣の姿に重なって表示される。
頭、右肩、左腹部。狙いは定まった。
『――順、怜、大丈夫だ。すぐに終わらせてやる』
「憎しみを焚き、猛れ……紅蓮!」
俺は、残された全ての力を右腕に集約させ、紅蓮の炎を紛らせてゆく。
やることは変わらない。
ただ敵を焼き尽くす。
それだけだ。
燼滅のプロメテウス 漣リラ @RiraSazanami
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