~1976年 さとくんと、きんちゃん~
ぼくは、集団登校のみんなと『およげ!たいやきくん』を歌いながら学校へ行く。
二年生のぼくは一年生と手をつないで歩いてる。
二つの班が二列に並んで歩いてる。いちばん前の班長の六年生二人がしゃべってたから。班長たちは、たいやきくんの替え歌の歌詞を考えてる。それを曲に乗せて歌ってる。
「『お~な~か~の~メリケン粉~が重いけど~♪』ってどう?」
と、違う班の班長のサトくんが言った。
「それオモロイな~ でも皮もメリケン粉やから中身無いやん~」
と、ぼくの班の班長のキンちゃんが返した。
「ほんまなや~」
「たいやきのくせに泳げるんやから、多分たいやきみたいに見えるだけで、ほんまは生きてた魚やったんちゃうかな~」
「え?」
「たいやきに擬態してたけど、鉄板の熱さにさすがに耐えきれんと海に飛び込んだんちゃうかな~」
「ぎたい?」
「ナナフシとかコノハチョウみたいな」
「あ~」
「あ、でもあれか、たいやきに擬態する理由がないか~、どっちにしろ食べられてしまうもんな~」
「あ~」
「何かに似せて危険を回避することにならんもんな~」
「あ~」
「擬態って不思議やな~」
「そやな~」
「あれって、例えばナナフシやったら『枝に自分の姿を似せたら敵に見つからんよな…よし!次生まれ変わったら枝みたいになろ!』とか考えるんかな?」
「生まれ変わんの?」
「生まれ変わりとは違うかー…どっちかと言うと遺伝…遺伝子への情報追加…更新?」
「むずかしい話やな~」
「沢田研二になりたいって思っても沢田研二には似てけーへんやろ?」
「そやなー」
「沢田研二になりたいという意志と沢田研二の容姿を記憶の中に入れてたら、次生まれてくる子供の脳みそにその情報が引き継がれて、そんで何らかのわずかな変化が表れて、そのサイクルを繰り返していくと、ある世代には沢田研二似の子が生まれてくんのかな… どれぐらい時間掛かんのんかなあ…」
「いや、ナナフシというか、虫ってそんなこと考えてるか?」
「そやなあ~でも賢さってなんやろな… まだ枝に似てなかった頃のナナフシはしょっちゅう敵に襲われて、それが嫌で、自分が掴んでる枝に似てたらって考える…というより想いっていうのかな?そういうものが世代を重ねていくうちに自分の置かれている環境に馴染んでいく… 弱い虫達の生きていく力… 外見を変容させる… それは考えるんやなくて、脳みそが勝手にやってくれてるんかな…」
「じゃあ、きんちゃん、タコとかはどう思うん?」
「あー、その時々に色を変化させる様なタイプかー…自分の周りの色を認識してるってことやろ?で、その色に自分の表面の色を変えるんやで?すごいなあ~、肌の色を変える時ってどういうこと考えて、どう身体を操作すんねんやろな?人間でいうたら、陽に当たらずに自由自在に小麦色にしたりするみたいな話やん?それのもっとすごいやつやん?ほんまにどう意識してやるんやろか?タコなんて質感まで似せてくるし、人間でいうたら自由自在に鳥肌立てたりできるってことやん?ひょっとしたら人間よりも進化してる存在かも知らんな…」
「キンちゃんの話、難しいね~ん」
「あ、メンゴメンゴ! そや!『お~な~か~の~ウンコが~重いけど~♪』は、どう?」
「ギャハハハ!めっちゃオモロイやん!」
「『あんこ』と『ウンコ』って言葉が似てるし、ウンコがお腹の中にあるって事は内臓があるって事やし、海で生きていけた理由にもなるし、ということは釣り人はウンコを美味そうに食べたって事やな~」
「うえ~っ!味の分からんヤツやなあ~」
「多分、皮にもたっぷり海水しゅんでて塩っ辛いわ生臭いわで食感も悪かった思うで~」
六年生は、やっぱりむずかしいことを言うなあ。
近藤曼荼羅 さむらいも @samuraimo
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