第18話 終焉

 11時にホテルに着いた。汗でびしょ濡れの髪の毛は、結んだ状態ですっかり固まっていた。ビールとたこ焼きとポテトサラダをお腹に入れ、大浴場へ行ったのはもう0時を過ぎていた。すっかり遅くなった。当日泊まりにしておいて良かった。

 厚夫はホテルで休んだ後、商店街をウロウロ歩き回り、ダーツバーを見つけて入って、先ほど帰って来たそうだ。彼は疲れていたのではない。あの状況が嫌だったのだ。だから、涼しい場所で休めるとか、日が沈んだら涼しくなるとか、あれこれ言って引き留めたところで、不機嫌なままだったろう。でも……やっぱりドローンショーは見せたかったし、大屋根リングの上からの夜景を見せたかったな。

 とても疲れたはずなのに、ベッドに入っても全然眠くなかった。なぜだろう。ビールだって飲んだのに。しばらく横になっていたが、どうせ眠れないならと、日記を書いた。3時半頃書き終わり、電気を消して寝たら、1時間後に痰が気管を塞いで死ぬかと思った。厚夫も飛び起き、電気を点けようとしたのか間違えてクーラーを止め、吐くわけではないのにビニール袋を私に渡してきて、私の背中をさすってくれたが、水を飲んで何とかなった。それから怖くて眠れず、睡眠時間は1時間だった。それでも朝になると元気に起き出す不思議。厚夫には、きっと合間に寝てるんだよと言われる。そうなのだろうが、そんな気もしない。恐ろしい病気に罹ったものだ。私は百日咳に罹っている。


 翌朝、厚夫と9時過ぎにチェックアウトをして出発した。息子たちの部屋には声をかけずに。息子たちは今日、それぞれ大阪観光をして別々に帰るそうだ。二郎から、

「帰りの交通費は……各自?」

と言われたので、出してやるよと言ってある。二郎は学生だから仕方ない。甘いか?

 電車で新大阪に行こうとしたら人身事故で電車が止まってしまったので、タクシーに乗った。電車だと途中北新地駅から大阪駅まで7分くらい歩くそうで、つまり梅田ダンジョンを歩くという事で、時間はかかるがちょっと楽しみでもあった。ボランティアの時に散々迷ったところだから。その梅田歩きは叶わなかったが、もちろんタクシーは楽だしあっという間だった。

 タクシーで新大阪駅に降り立った。駅構内に入るとお土産が売っている。

「万博土産が必要なんだ。」

と、今更厚夫が言う。しかし、ここにはあまりない。改札内にもあるよと言って、新幹線の改札を通った。しかし、探してもあまりない。確かに一箇所固まって万博土産はあったが、これだけか?

 ああ、あっちだ。在来線に乗り換える時に通る新幹線改札口の向こうに、たくさん売っている所がある。私は以前、そこで万博土産を買ったのだ。電車で来ればあそこを通ったのに、タクシーで来てしまった為に通らなかった。4月にはもっと改札内にもあったような気がしたのだが、気のせいか。

 残念だったが、厚夫はある中で選んで買っていた。なんだ、万博土産が必要ならそう言えば良かったのに。昨日ホテルに帰る前にショップに寄れば、まだ空いている時間で色々選べただろうに。


 万博に行った日に、阪神が優勝した。ボランティア仲間の間では、阪神が優勝したら交通機関が乱れ、また万博に閉じ込められるかもしれない、などという話まで出ていた。実際には優勝しても電車は普通に動いていた。だが、翌日二郎が道頓堀の串カツ店に入ったら、阪神優勝のお陰で生ビールが199円だったとか。むしろラッキーだったわけだ。

 また、あの日は石破茂首相が自民党総裁を退くと発表したという事だった。

 そんな、あの日。万博の一般来場者は18万5千人ほどだったとか。お盆休みよりも多いとは。

 しかし、後になって思い出されるのは大屋根リングの事ばかり。多少は残されるようだが、壮大さは残るのだろうか。また、あのリングを見に行きたい。あのリングに、会いたい。

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ちょっと具合の悪い家族が東京から大阪・関西万博に行った話 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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