第6話 幸せになる覚悟

———10年後。


 グイドと一緒に暮らし始めてからミアの不幸や不運は激減した。

 グイドは意外と用心深く、ミアのおっちょこちょいから来る失敗を予見して忠告してくれる。


 しかし平穏な生活を送る中でも、ミアには引っかかり続けていることがあった。

「グイド様が一体何を考えて私に婚約を申し込んだのか、いまだに分かりません。同情ですよね?」

 ミアはクレメンティ家の庭園で、グイドに小声で問いかけた。


「お前さ。いまだにそう思うの?」

 グイドは少し呆れたように言葉を返す。

「不幸と不運が積もり過ぎて疑い深くなっちゃったんです、ご理解ください。さすがにもう夢だとは思いませんけど」


 いくらミアが現実を信じられなくても、10年も醒めない夢があるとは思えない。

 グイドはミアに近づき、その胸元のネックレスに触れた。


「このネックレスを川で見つけて渡した時。こいつを幸せにしたいって思った」

「やっぱり憐れみですね。捨てられた犬がいると毎回拾ってきちゃうタイプですね」

「昔それでよく母親に怒られてな、って違うわ!」


 グイドは顔を赤らめた。

「あの時、可愛かったんだよ、お前が!」


 春の柔らかな日差しの中、遠くから三人の子供達がはしゃぎながら二人に駆け寄ってきた。


「とうさま! だっこー! ぐるぐるー!」

「あ! エミリオばっかりずるい! わたしもー!」

「おれもー!」

「よーし三人まとめて抱えてやるぞー!」


 グイドが三人の子供達を抱えてグルグルと回る。

 子供達は「きゃー!」と嬉しそうに叫ぶ。


 グイドは子供達を地面に下ろすと、次にミアを抱え上げた。

「えっ!?」

 ミアの耳元でグイドは甘く囁いた。

「お前もいい加減諦めて幸せになれ」


 グイドはそのままぐるぐると回る。

「かあさまもぐるぐるー!」

 子供達の笑う声。

 やがてゆっくり地面に下ろされたミアに、子供達が競うように抱きついてくる。


 子供達をぎゅうっと抱きしめ返して、ミアは思った。

(ずっとこの時間が続いてほしい)


 家族から温もりを沢山与えられる生活が、自分なんかには勿体無いと時々思う。いつか罰が当たるのではと不安になる。

 でもグイドはどうやら、そんなミアの不安を見抜いていたようだ。


 諦めて。覚悟を決めて。


(お母さん)

 ミアは光が満ちる空を見上げた。


(私はいま、最高に幸せです)

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【短編集】ディアマンテ王宮恋物語 藤咲紫亜 @fujisakisia

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