第5話 夢ならば
グイドはミアを見送ると、ミアの継母を見据えた。
グイドの周りに火の玉が幾つも出現する。
「さっきのようにミアに手出ししてみろ。お前を燃やす」
「何のことかしら?」
継母は不思議そうな顔をする。
グイドは継母を睨んで声を張り上げた。
「シャンデリアと天井の木材は、上の階からミアを狙って落とした。花瓶も上の階から何か仕掛けを使ったんだろう。窓枠は少し触れただけで外れるように細工していた。使用人がいないこの家で、窓に触るのはミアだけだ。窓の仕掛けに驚いて立ち止まったミアが落ちるよう、床材にあらかじめ切り込みを入れ、その下には深い落とし穴を掘っておいた。これまでも似たようなことをしてきたんだろう」
継母の顔から表情が消える。
「何故ここまでする」
グイドが問いかけると継母はさして興味の無い様子で呟いた。
「ただの暇つぶしよ」
「暇つぶしだと?」
「ええ。人生には娯楽が必要でしょう? ミアは私達の退屈な時間を紛らわすためのおもちゃ。飽きてきたからそろそろ廃棄して、新しいおもちゃを手に入れようと思ってたの」
「本物の化け物だな」
グイドは汚らわしいものでも見るような顔で、怒りを露わに吐き捨てた。
「だが要らないと言うのであれば、彼女はありがたく連れて行かせてもらう」
そこにミアが大きなバッグを下げて歩いて来た。
グイドはそのバッグを持ってやり、継母を一瞥した。
「今後二度とミアに関わるな。俺にとっては、この家一つ潰すことなど造作もないと覚えておけ」
そう言うと、グイドは先ほどイザベラが飛び出して行った玄関から外へ出る。
少し後ろを歩くミアが、背後を振り返る気配がした。
☆☆☆
ミアはメルクリオの家を出る時、最後に後ろを振り返った。
(見なきゃ良かった)
階段の途中に佇んでいた継母は、ミアが見た事もないほど恐ろしげで、屈辱に燃えた悔しげな表情をしていた。
グイドは一体何を言ったのだろう。
家々が並ぶ中、自分の前を歩くグイドは苛立っているように見える。
「グイド様」
「何だ」
「婚約話は、あの場を乗り切るための口実ですよね?」
グイドは立ち止まった。けれど振り返らない。
ミアも自然と立ち止まる。
「俺は本気だ。けど、お前が嫌なら好きな時に婚約破棄すれば良い」
「……グイド様。ひょっとして私もう死んでます?」
「は!?」
グイドがぶん!と音がしそうなくらいの勢いで振り返った。
「いや私の人生にしてはあまりに恵まれすぎてて。死後の夢なら納得できるんです」
ミアは自分の両手のひらに視線を落とした。
「分かった! 私の妄想ですね? だって私に都合が良すぎますもん。おかしいと思ったんですよ、だってグイド様ですよ? よりによって好きでたまらなかった人が現れて助けてくれて婚約を申し込んでくれるなんて完璧な乙女の妄想じゃないですか! はー、そうか、人生の終わりに、神様か誰かが私に夢のご褒美をくれたんですね」
言いながらミアの瞳からポロポロと涙がこぼれる。
(夢は醒める。夢は終わる。夢は現実じゃない)
グイドは堪えきれず頭を抱えた。
「待て待て待て待て! 俺の方が処理できん! お前が、俺を好き?」
「はい、好きです。グイド様は優しくて正義感があって、その上いつも全力で、素敵で可愛い人なんです」
今の状況が夢だと信じて平然と『推し』について語るミアに、グイドの顔は赤くなったり青くなったりと忙しい。
「……お前の感覚、分かんねー……」
グイドはヘナヘナと力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。
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