凪の家 ― 水平線を測る人々―

海を見たい——
余命を宣告された漁師・隆の願いを受けて、建築士の「私」は一軒の家を設計した。
水平線を測るための大きな窓をもつ、海辺の小さな家。
隆は亡くなり、ノートには「この家を海を必要としている人に貸してほしい」と遺されていた。

やがて、老女、少年、離婚した女性、詩人、建築学生……
十二人の人々がこの家を訪れ、去っていく。
彼らはそれぞれの時間を刻み、窓枠に水平線の印を残していった。

十年後、十三人目の女性がやってくる。
夫を海で亡くしたという彼女は、静かに問いかける——
「私も、救われるでしょうか？」

海は静かに、しかし確かに変わり続けている。
変わらないものなど、何ひとつない。
それでも人は、そこに線を刻む。