第17話 愛する人との時間
アッと云う間に、マンションに着いた。
自転車置き場に自転車を置いている時には、心は、もう耕二さんの元に飛んでい
た。
「遅くなって、ゴメン」と勢いよく部屋に入った。
耕二さんは、若いミキサー君と仕事部屋で、何やら、音楽を鳴らして、機材を覗き
込んで作業をしていた。
「台所に置いてあったおにぎり二人で食べたけど、江川君、若いし、お腹空いてる
と思うから、何か作ってあげて」と耕二さん。
「はい、ご飯は、おにぎりにしてないし…う~ん?」
冷蔵庫やストックを見て考える。
「インスタントやけどラーメンか、簡単に残り物のきのこで、きのこのペペロンチ
ーノでも…どっちがいい?」
「僕、ペペロンチーノ大盛」と江川君。
気兼ねをせず、言い放つ江川君が気持ちいい。
料理をしている私の頭には、もう、さっきまでの彼との空間は、遠い映像のように
フェイドアウトして行く。
美味しそうに、がっつく江川君を見ていると、気持ちがよく、生きている実感が
あった。
これが現実だ! 生活だ!と思った。
食べ終わると、一服する間もなく、「さぁ、続きしましょう」と言いながら、江川
君は仕事部屋に入って行く。
江川君は、夜中の2時前に帰って行った。
江川君が帰った後、耕二さんと、向き合い、お互いの一日を報告し合った。
私は、適当に真知子ちゃんの悩みを作って、話した。
嘘を憑いた。
耕二さんと暮らすようになって、お互い嘘はない。
何でも、言い合って来た。
これは、初めての嘘に近かった。
心が痛んだ。
でも、これは、耕二さんを思っての嘘だ。
後片付けをして寝る準備をしていると、妙に落ち着いた。
彼との時間は、やっぱり、幻、夢みたいなモノで足が宙に浮いている。
耕二さんとのこの空間は、地に足が付いた、現実の確かさの安心感があった。
朝方、耕二さんと二人で並んでベットに入った。
ホッとする。
「今日は、お疲れさん」と言い合い、お互い、ギューッとし合った。
安心感と幸せ感に包まれる時間だ。
彼はただの恋する人で、耕二さんは、一緒に生きて行く愛する人。
恋する人と愛する人 森田さとみ @katube2117
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