帝王は倒れず
ヒレイの渾身の火炎弾により風穴が開けられ、それはそのままデミトリアへの反射となり胸の痛みへと繋がる。
(負けるのか、儂が……いや、まだ終われんな!)
「っ、スペル発動ファイアブラインド!」
敗北を悟りながらも目をギラつかせたデミトリアの覇気を察したエルクリッドが咄嗟にカードを切り、刹那にリベリオンが仕掛ける体当たりを受けたヒレイを受け止める炎の膜を作り出し、落下を防ぎながら静かに地に下ろす。
魔王リベリオンはよろめきながらもその目に闘志が宿り、切られた頭が攻撃せんと黒き雷を静かに口に貯めて放たんとするのにエルクリッドも警戒するが、ここまでの疲労と傷とで膝をつき、だがそれでも抜いたカードを咥え両手をつきながらも前を見つめ戦う意志を示す。
「やめろリベリオン、これ以上の戦いは無益だ」
「相手を倒すのであれば、これで決着するが?」
「その必要はない、攻撃中止を命ずる」
デミトリアの指示を受けて攻撃態勢をリベリオンが解き、それにエルクリッドが一瞬気を抜くとそのまま咥えてたカードを落としながら前のめりに倒れ、何とか起きようと身動ぎするも立てず、しかし歯を食い縛りまだ戦おうという姿勢をやめない。
「まだ、やれます! まだあたしは……!」
「少しは頭を冷やせ。此度の試練は儂に勝つ事ではなく力を示すのが目的、お前達の強き思い、その実力、その二つが合わさり生み出されるものはしかと確かめさせてもらった」
半ば呆れ気味にデミトリアが腕を組みながら語り、そこでようやくエルクリッドも闘志が消えて冷静になれた。
それを感じ取ってからデミトリアはリベリオンをカードへと戻し、絵柄から色彩が失われた第六神獣の姿を見届けしまってふっと笑い吹き抜ける風の方に顔を向ける。
「かつてお前の師たるクロスは、そこにいるタラゼドを含む仲間達と共に戦い儂らを制した。そしてそのさらに次の世代が育っているとわかったこと、それだけで儂は満足したというのもある」
同じように絶対的な力を前に諦めず戦い抜いた者達がいた。心折れても励まし合って立ち上がり、持てる全てを賭けて戦い抜いた者達をデミトリアは思い返す。
そしてかつて辿り着いた場所で聞いた言葉を思い出しながら、目を瞑りカードを抜く。
「スペル発動ベルサイン……ひとまず、お前達は合格だ。話は屋敷に戻って傷を癒やしてから、だな」
対のカードを持つ者へ合図を送り呼び出すベルサインのカードをデミトリアが使いエルクリッドの方へ向き直ると、彼女の傍らにいたヒレイが消えてカードへ戻りエルクリッドも倒れ伏したままスースー寝息を立てて眠っていた。
やれやれと言った様子でデミトリアが足元に気をつけながらエルクリッド達の側へとゆっくり進み、唯一意識があるタラゼドがお疲れ様ですと座った状態で声をかけ微笑む。
「その気になれば、エルクリッドさん達をもっと余裕をもって倒せたでしょうに……」
「お前もまだ余力があるにも関わらず静観していただろう、お互い様だ」
そうですねと答えたタラゼドが指先に光を呼んで円を描き、一瞬の収縮の後に弾けて柔らかな光が周囲に降り注ぐ。光に触れたエルクリッド達の傷が少しずつ消え、デミトリアの傷も癒えていった。
雲が風に流され晴れていく中で、タラゼドの名を前置きとしてデミトリアはある事を彼に話す。
「お前には先に伝えておこう、かの地で待つ者からの言伝をな」
穏やかな表情が一転、タラゼドは真っ直ぐデミトリアの目を見て静かに頷く。
かの地で待つ者、それが誰かをタラゼドは知っている。そしてこの旅の果てがそこに行き着くと確信でき、伝えられた言葉を胸に受け止めながら夢の真の終わるべき刻を知るのだった。
To the next story……
星彩の召喚札師ⅩⅣ くいんもわ @quin-mowa
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