D2 Clarent of knight
英英一
第1話夕闇と共に出づる陰
それはいつも通りの毎日特に代わり映えのしない日常だった。
今でもピンクに歪む憂いた雲を見ると思い返す。
あれは夢ともいえる程の奇妙な夏の思い出だ。
7月30日
青い空はだんだんと赤く染まり日は斜めに傾く、
段々と沈むゆく夕焼けは真っ白な校舎を赤く染め上げる。
校舎にはまだ多くの生徒教師がいる中、
ここ音楽室は2人だけ、
「先生来てるか?」
と圭太が箒をバットのように構えながら僕に聞いてきた。
清掃時間の音楽室にはぼくと圭太の二人だけ、僕はとっさに教室の扉の外をガラリと少しだけ開き周りを覗き先生や女子が来ていないのを確認すると
「うん、来てない、大丈夫。」
と答えた。
掃除の時間にあまり先生の来ない音楽室の掃除ではいつものように僕らはちゃんばらごっこをやっていた。
今日はいつもなら、口うるさく注意してくる女子もいない。
なぜなら2日前から2人とも休んでいるからだ。
理由はよくわかっていないが二人とも家の都合らしい。
ともなればふざけるのは当たり前だ。
全男子小学生にとって、掃除時間ほど退屈で憂鬱な時間は存在しない。
この前たまたま掃除の時間に遊んでたのを見られて怒られた時に先生が外国では清掃員がやっているが日本が生徒にやらせていることにかんめい?を受けて今では生徒にやらせる所が増えてるなどと言っていたが、なんとも酷い話だと思った。
わざわざ清掃員がいるのに子供にやらせるだなんて大人は子供を余程イジメたいらしい。
でも今日は、普段なら女子がいなくなったタイミングでしかできないこの遊びも邪魔するものは何もない。
さすれば教室に響く音は乾いた箒の撃ち合う音と僕らの声だけ………。
そうして圭太と僕はいつも以上に白熱していると
キーンコーンカーンコーン〜♪
キーンコーンカーンコーン〜♪
と掃除の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
ようやく学校が終わる。
ついに明後日から夏休みだ。
僕と圭太はいつも以上にワクワクしていた。
小学生からしたらそれは当たり前のことだった
しかも普段なら6時間もある授業も今日は5時間だけで帰れる。
そうつまりいつもより1時間長く友達と遊べる。
しかも明日行って帰れば夏休み
早く学校が終わるのが待ちきれない。
さっきまで振り回していた箒を掃除用具入れにしまい。
廊下へ飛び出す。
廊下では他の生徒と教師が清掃の点呼をしている中を早足で通り抜ける。
決して走らない。
走れば呼び止められて怒られてしまう。
だから早足だ。
教室に着くと今日は掃除終えてはいたけれど、
まだ机や椅子はまとめられて後ろに下げられたままだった。
僕らはいそいそと教室の机を元に戻した。
そしてランドセルを机の上に置き机の中から教科書や退屈な算数の授業の終わりにに出された宿題のプリントをくしゃくしゃにならぬようにいれるためにファイルを取り出す。
「あっ」
とつい声を漏らす。
何故なら授業参観の参加の有無について書かれたのプリントを机の奥の木の板と金属の隙間に挟まっているのを見つけたからだ。
これは非常にまずい。
そういえば先週に渡されてそのまま存在を忘れていた。
すぐに鬼の顔をした母さんの顔がよぎる。
(お父さんに渡そう。お父さんなら次から気をつけろよと言ってきっと許してくれる)
正直最近の母さんの口うるささにはうんざりしている。何かある度に怒られている気がする。
それに母さんは最近僕にそろそろ中学生になるからと塾に行く話ばかりしてくる。それに対してお父さんは僕の好きなようにさせてくれる。それにいつも内緒でお小遣いもくれる。
低学年の時は母さんに甘えていた僕も今はもう5年生だ。
正直、うるさくを言ってくる母さんより同性でいつも僕に甘い父の方が気が合う。
家に帰れば、
「宿題はやったの?プリントは出した?今日の学校はどうだった?」
といちいち面倒くさいことは聞いてくる母よりも週末になったら、
「次の休みはどこに行きたい?欲しいゲームあるか?」
と楽しいことを聞いてくれる父の方が好きになるに決まってる。
そもそも小学5年生になって母に甘えるなんて恥ずかしいと思っている。
それは許されるのは、せいぜい3年までだろう。
もし仮に、母と買い物行ってる姿を友達に見られようものなら次の日、笑い話になって恥をかくのは当然だ。
そんなことを考えながらさよならの挨拶をしホームルームを終える。
すると、廊下を駆け足で走り抜け急いで中履きから外履きに履き替え玄関を出る。
そしてこれ以上無いほどの開放感を得る。
「はぁ、はぁ早いよ、悠太ぁ」
と息を切らしながら圭太が少し遅れてやってきた。
「遅いぞ圭太、もっと早く走れよ。」
「そそ、そんなこと言われたって全力で走ってるよ
悠太が早すぎるんだよぉ」
と返した。圭太は幼稚園からの友達で見た目も太っていてはっきり言ってしまえば、少しとろいしビビリでいつもグチグチ文句も行ってくる。でもなんだかんだ言っていたずらの時も何するにもいつもついて付き合ってくれる最高の友達だ。
「二人共遅いぞ俺、五分も待ってんだぞ。」
そう言って、学校の前の赤いポストの前で不機嫌そうにこちらを待っていたのは小学生になってからできた友達の大(まさる)だ。
大は同年代の僕らと比べて、少し背が高いそして僕よりも足が速くて勉強もできる。いわゆる優等生ってやつで女子からも人気だ。ここ最近受験の為の塾通いが本格的になったのと今年から隣のクラスになってしまったので疎遠になっていたが今日、登校中に会った際に、今日は一緒に帰れると言っていたので僕はいつも以上に学校が終わるのが楽しみで楽しみで仕方なかった。
三人で一緒に歩き始めてまず最初に話したのは最近発売されたばかりのピケモンの最新作についての話題だ。三人とも幼稚園の頃から一緒にやっているからどこまでクリアしているのか?何をゲットしたのかについて心ゆくまで話し合った。
すると圭太が不意にこんな話をしてきた。
「なぁ、お前ら知ってるか?最近行方不明者が出てるって話。噂によるとさ3組の前田っていううるさい学級委員長いたじゃん。」
「あー、あの毎年の合唱コンクールの時の練習で何回も泣いてたやつだろ?」大
「そう、そいつが先週の火曜日からずっと休んでるらしいんだけど噂によると、行方不明って話らしいぞ」
「本当かよ、それ?」悠太
圭太はよくそんな嘘かホントか分からない都市伝説や噂話が好きでよく話してくる。
それに対して大は、
「行方不明っていうけどじゃあどこに行ったんだよ?」
と聞き返す。すると圭太は
「それが学校の裏山あるじゃん?」圭太
「あるないつもの公園の所だろ?」大
「あそこってさよく女の幽霊が出るって噂が前からあるじゃん?」圭太
「まさか?」悠太
「それに下校中に見つかって攫われたって話だぜ!」圭太
「幽霊?んなもんホントにいるのかよ?」
と僕が返すと食い気味に
「 だって騎士団がいるじゃんあいつらはきっとそういうの戦ってるんだよ。」
と圭太は目を輝かせながら返してきた。
騎士団とは?妖怪や幽霊や魔獣に、対処する仕事にしている奴らで正直言って、本当なのかわかんないやつらだ。大人は昔は大きな災害などがあると自衛隊と共に騎士団が助けてくれたっていう話や昔、子供の頃によくお世話になったなんて話をよくするけど僕は実際妖怪や幽霊、魔獣が実際いるだなんて信じていない。
だってそんなの見た事ないもん。
「そうかなぁ、本当に戦ってるのかなぁ?」
と僕と同じように大も答えるのだった。
そう、僕も大もこの時は、まだ信じていなかった。
妖怪や魔獣、幽霊の存在それらから僕らを守る騎士のことを。
そんなことを話しながら歩いているとふと、
いつもの交差点に見慣れない季節外れの紺色のコートを着た男?がたっていた。
男と言っても背丈の高さと雰囲気的に男の人だろうと言う感じでその顔はとても中性的でまつ毛も長く綺麗な顔をしていた。なのではっきりは分からなかった。髪も長く横にトゲトゲというか跳ねた黒髪
それでいてどこか気怠げな表情をしていた。
信号待ちをしていると、
「おい。」
と急に話しかけてきた。声質的にもやっぱり男だった。
急に話しかけられた事に驚き、その男の顔を見るととても鋭い目つきをしていた。まるで僕らを睨みつけるかのような目付きの怖さに僕らが怯えていると
「お前らこれから遊ぶのか?」
と声を掛けてきたのでそれに対して大が、
「なっなんだよお前!!そんなの俺らの勝手だろう!?」と反発する。
「今日はやめといたほうがいいぞ。」
「はっ?何で?」大
「風と雲行きが怪しい………。」
「風と雲行きがあやしいってなんだよ!」大
男は僕らに何かを警告してきたのだ。
ただ一体何を警告しているのかが分からない
だから恐る恐る聞いてみた。
「何かが起こるの?」
と、すると男は何処か遠くを見つめながら、
「あぁ起こるぞ知らない方が関わらない方が幸せな事がな………。」
と答え、
「だから今日は早くに帰って家からは出ない方がいい………。これは警告だ………。」
と言うと僕らの進む方向とは逆の方、
学校の方へと男は向かっていった。
「なんだあの気味の悪いやつは?」大
「学校の方へと向かっていったね。」圭太
「もしかしたらアイツがお前の言ってた妖怪とかだったりしてな!」大
「おいっバカッやめてよ!!」圭太
「まさかビビってんの?お前?」悠太
「いや!ビビってないもん!!」圭太
「いやビビってんじゃんその顔はさw」大
そんなやりとりをしながら僕らは途中で別れ、
「それじゃいつもの公園で!!」
と言って一旦、それぞれの家に帰って行った。
いつも公園とは僕らが通う小学校の裏山から少し降ったところにある殆どの遊具が木で作られた公園でよく丸太公園なんて呼ばれている。
山の麓からでも見える高い石碑が目印で少し横に歩くと綺麗な滝があるが以前から事故が多くて立ち入り禁止になっている。
でも今はそんな事はどうでもいい!
いち早く家に帰って荷物を置かなきゃと僕は走った。別れてから10分くらいで家の玄関がようやく見えてきた。
そして僕は大急ぎで玄関の鍵とドアを開けて勢いよく
「たっだいまァ〜!!」
と叫びながらいつも通りランドセルを玄関にぶん投げて遊びに行こうとするのだが今日は違った。
玄関には目を閉じたまま、母さんが正座していた。
何かいいたげな顔のままパチリと目を開き
「おかえりなさい」
と、無機質に返す、決まってこの行動をとる時はお説教の始まりである。
思わずこちらも停止した中、
「ねぇ、悠太?お母さんに何か渡さないといけないものあるんじゃない?」
とお母さんが切り出してきた。
まさかバレている?いやそんなはずは………!!
その時、僕の頭に激しい電流が流れた!!
玄関の時計の横に貼ってあるカレンダーを見て絶望したのだ。
そう今日はママ友ランチとカレンダーに書いてあったのだ!!
終わった………。
お母さんはそこからいつものように1つ長いため息を吐く。
そして明らかにイラついた表情で、
「お母さん、授業参観のお話しどころかお手紙すら貰ってないんだけど?どういう事かしらぁ?」
続けて、
「お母さんいつも言ってるよねぇ、まず家に帰ったらランドセルを開けて連絡ファイルの中身を玄関に置いてるこのカゴの中に入れてって何度も何度も言ってるよね!!」
さらに続けて、
「そもそもこのカゴだって元々はリビングに置いていたのをアンタが毎回毎回ランドセル玄関にほっぽり投げてすぐに遊びに行って門限ギリギリにいつも帰ってきて手紙出すの忘れるからわざわざ玄関に置いてるのに……。」
さらにさらに、
「それにさぁ、帰ってきたらまず手紙出して手を洗ってランドセルちゃんと自分の部屋に持って行ってもし遊びに行くのなら誰と何処で何時まで遊びに行くかを伝えてから遊びに行きなさいって!!」
………。
「お母さんは貴方のために言ってるの!!なのに何でいつもこうなの!?言われた時はハイハイ答えるくせに行動が伴ってないじゃない!!」
「もう貴方5年生なのよあと今年合わせてもあともう2年で中学生なのよ」
「それに今日と言う今日は塾の見学に行って貰います!!最近ずっとその話をしようとしても都合の悪いような顔して自分の部屋に逃げたり遊びに行くと言っていつもなんも言わずに何処かへ出かけて……」
「そんなのやだよ!!僕そもそも塾になんて行きたくないよ!!」
と咄嗟に反射的に返す。
それとこれとは話が違う!!
最近はお母さんは塾の話をよくしてくるが、
僕は塾だけはいきたくないのだ!
だって塾に通い始めたらきっと成績の話をひたすら家でされるだろうし友達と遊ぶ時間が減る。
そんなの真っ平ごめんだ!!
それに塾なんて中学生になってからでもいいのに……。
それに何でもかんでも母さんの言う通りにするのはもうすごく不愉快だしウンザリだ。
「こういう時だけ反論して、貴方ねぇ!」
母さんは前の年の後半から変わってしまった。
理由はきっと保護者会に参加するようになって他の生徒の親に影響されてるんだと思う。
前よりも怒ることが増えたし塾の話だってそうだ。
そんな風にまだまだお説教が続きそうだったその時だった。
カチャリと鍵の閉まる音と同時にガチャガチャとドアを開けようとする音がした。
「あれっ?なんで鍵かかってないんだ?」
という聞きなれた声がした。
なんという幸運!僥倖!
そう!お父さんが帰ってきた!!
再び鍵を開ける音ととドアを開ける音が聞こえ、
「ただいまって………?何してんの?」
スーツ姿で帰ってきた父さんは、
僕らの様子を見て少し困惑の表情していた。
玄関に立ち尽くす僕と正座したままのお母さん……。普段遅くに帰ってくる父さんには見慣れない光景だったのだろう。
「何って見ての通り、お説教よ。お説教!!」
と母が答えると父さんは僕を見つめて、
「また何かやっちゃったの悠太ぁ?」
と苦笑いを浮かべながら父さんは返した。
「この子がまた学校のお便り出さなかったのよ!
と母さんが始める。
しかも今回に限っては授業参観のよ!!授業参観!!」
「あ〜うん…………。」
と全てを察した父さんはあらら、という顔をしている。
「しかも提出期限が明日だったのよぉ!!」
と怒る母さんに対して、
「なら間に合って良かったじゃないか!それに明後日から夏休みなんだし、授業参観は二学期の話なんだしそんなに怒らなくても…………。」
お父さんがなだめようとするがすぐに母さんはキッと父さんを睨み返して、
「二学期の授業参観だから怒ってるんじゃない!!」
と更にお母さんは怒りを爆発させ、
「それにねこれは日常的な事、当たり前のことだから怒ってるのわかる?」
「それに今回に限ってはねぇ、たまにしか学校行事に参加しないあなたはいつも忘れてるかもしれないけど、うちの学校は11月にバザーがあるの!それの調整を含めた大事な大事な保護者会があるの!!」
「それもこの子の口からでもなく今日のママ友とのランチで知ったのよ私!!一体周りからどんな目で見られたかわかる!?」
「しかも今年からこの子が高学年だから運営の方をやらないといけないの!今までとは違うの!!責任重大なの!!」
と止まらない母さんの怒りに流石の父さんも切り出す。
「そんな話まで子供にしたって仕方ないだろ?それに俺だって仕事もあるけどできる範囲で学校行事にはいつも参加してるだろう?」
「貴方はいつもそうやって甘やかしてぇ!この子ももう5年生なの!自分の提出物くらいちゃんと出してもらわらないと、こんな調子じゃ普段の宿題とかの提出物だって心配になるじゃない!!」
「悠太他の普段の宿題とかの提出物はちゃんと出してるのよね?」
急に話がこっちに来て驚きながらも僕は、
「ちゃちゃんとだ、出してるよ…………。」
と答えた。
「本当に?」
さらなる圧に怯えながらも、
「だっ………出して……ます……」
と絞るように答える。
「ほら、本人もそう言ってるだからさ……今回はたまたま忘れていただけなんだろ?」
と父さんよ宥めるがそれは逆効果で
「今回だけじゃないのよ!もう何回も言ってるの!!」
「それに関しては俺からもこれからは言うよ!ちゃんと注意するよ!」
と父さんが助け舟を出してくれる。父さんは続けて
「そんなにカッカカッカ怒ったって仕方ないだろう?悠太だって萎縮しちまってるし……とはいえ、今回の話で悪いのは悠太なんだろ?ならまずちゃんと謝らせる所からだろそこから………」
と返すが、
「私は今回限りの話をしているんじゃないの!いつもいつも何度もやって今こうなってるから怒ってるの!」
ますますヒートアップしている母さんを前に父さんはため息を吐きながら、
「お前も少し落ち着けよ、これから塾に行って説明聴きに行くんだからさぁ!」
そのまさか、父さんは今日に限って母さんとグルだったのだ。
だから何時もより早く帰って来ていたのだ。
僕は再び絶望した。まさかお父さんにもハメられるなんて………。
お母さんはその言葉で正気を戻ったのかハッとした顔をした後に目をつぶり少し俯いて深呼吸をする。
そしてしばらく頭を抱える。
すると落ち着いたのか
「悠太とりあえずそういうことだから早くお父さんと車に乗って待ってて私は………もう少し落ち着いてから行くから………。」
とだいぶ落ち着いた声で答えた……。
父さんは僕に、
「ほら……早く乗って……。」
と僕をすぐに車のいつもと同じ運転席側の後部座席に乗せた。
それから15分ぐらいしてお母さんが助手席に乗って車は発進した。
夕暮れの町の中を緑色の軽自動車が走る。
しかし曇りきった空では夕日は覗けない。
そんな曇り切った空模様のように
父さんも母さんも僕もどこか暗い表情のまま、
車の中では一言も話さなかった。
しかしやはり駅前に着くと夕方の帰宅途中の高校生や大人で町はごった返していた。塾に行くのか習い事に行くのか僕と同じくらいの小学生もちらほらいる。駅から少し離れた駐車場に車を停めて少し歩く
塾はいつも父さんが会社に行く時に使ってる駅のすぐ横にあって前の塾とは反対方向であり全然知らないところだった。
塾に着くと前もって連絡していたのか、
すぐに黒のスーツ姿の白いメガネをかけたいかにもな男の人が出てきて塾の案内を始めた。
男の人は歩きながら4枚程度の紙を纏めたパンフレットのようなものを僕ら3人に渡して授業中のクラスの横通りながら説明を始める。
塾は、夏休みから夏期講習を行っているらしくまず午前中に学校の宿題をやらせて午後に3時間塾での授業があるらしい。今の時期は塾内の実力判断テストの結果でクラス分けをしていたタイミングでここから実力判断テストを受けてもらえばすぐにでも自分にあったレベルの授業が受けれるとの事だ。
でも僕にはそんなことどうでもよかった。
説明をしている塾の先生は俯いている僕が不服そう且つ不安そうにしているのを見て優しく
「塾でもお友達はすぐにできますよ。」
と声をかけて来てくれた。
その言葉で僕はすぐに1番中の良い圭太と大のことを思い出した。
約束を破ってしまった。
元々は低学年の時にも1塾に通っていたのだが、
嫌になってたまに何度かサボってたらそれがお母さんにバレて怒られて父さんも
「本人も乗り気じゃないなら辞めれば?」
と言ったので3年生の後半で辞めた。
それ以降週に一度の英会話やお母さんの買ってきた問題集などの自己勉強を続けてきた為、成績は今でも上の方を維持できている。
その為それ以降はしばらく塾の話はなかったが今年に入ってから母さんはまた何故か塾の話をするようになった。
それから塾の説明を聞いても僕にはさっぱりだった何故なら明日どう大と圭太に謝ろうかで僕の頭の中はいっぱいだったからだ。
きっと2人とも優しいから理由を言えば許してはくれるだろうけど………。
複雑な感情が入り交じる。
中学になったら圭太とはきっと今まで通りの関係が続くだろうでも、大とはきっと今よりも遠くなってしまうんだろうなぁ……と考えてしまった。
大は中学受験のために塾に通っている。それこそ元々僕と大は同じ塾で仲良くなった。
たまたま算数プリントを忘れて追加課題を居残りでやらされた時に一緒になって
そこから気が合うということで仲良くなった。
そこから2年くらいで僕は辞めてしまったが大は今でも週6日通っているらしい。
今日はたまたま塾が休講日だったから久しぶりに遊べるということですごく楽しみだったのに………。
中学生になれば部活動が始まってしまう。
そうなるとより忙しくなるのだろう。
幼い時によく遊んでもらっていた隣の春樹兄ちゃんは中学校でバスケ部に入って以降毎日遅くまで練習して土日には練習試合だと言って自分の中学校や他校に朝早くに車で送って貰っているのをよく見ていた。
そしてもう三年生ということで今年の夏に引退して夏から本格的に高校受験に取り組むらしいとお母さんが言っていた。
そう中学受験の次は高校受験、高校受験の次は大学受験
そうやってきっと
きっと、
大とはどんどん離れていってしまうのだろう。
いや所属する部活やクラスが違えば
圭太ともどんどん離れていくんだろう。
そうやって大人に近づく度に
僕らは離れ離れになって
お互いのことも忘れてしまうのだろうか?
説明が終わって帰りの車で
僕ら三人は、また話すことはなく
沈黙の中だったが
お父さんが沈黙に耐えられなかったのか
何とか気を利かそうとして
「今日はもう疲れちゃったし牛丼でも買って帰ろうついでになんか甘い物で買うか?」
と話し出したが、
依然僕とお母さんは話さず下を向いていた。
「もうお父さん行くからな!牛丼!吉〇屋行くからな!着いたらちゃんと選べよな!」
と何とか少しでも元気づけようとは
強引に吉〇屋のドライブスルーに入った。
「いらっしゃいませ、ご注文何にしますか? 」
の声が、ドライブスルーのスピーカーから聞こえる。それに対して父さんは、
「私は牛丼の大盛りで君らは?」
と答えながらもらこちらに聞いてきた。
「私は大盛りで………。」
とお母さんは答える。
「悠太は?」
と父さんは引き続き僕にも聞いてきたので、
「僕も大盛りで…………。」
と答えた。
父さんは
しばらくすると車を少し動か窓から牛丼を受け取りお金を払い車を発進させる。
そこからも何度か父さんは話しかけてきたがもう覚えてない。
覚えてられないほど意気消沈していた。
それからいつも通り
三人で食卓を囲み
リビングで母さんの監視の元、宿題をして
風呂に入って
僕は自分の部屋に戻った。
ただ1つ変わった事は家に帰っても会話が何一つとして無かったことだけ。
今日は何時もより何倍も僕の家は静かだった。
いつもならゲームをするが今日はそんな気にもなれずにそのまま倒れ込むようにベッドへと入り、
大や圭太のことやこれからの事をグルグル考えているうちに僕は静かに眠りについた。
夜 10時30分
子供部屋の扉を開けると珍しく悠太は眠っていた。
部屋の様子を確かめようと中に入り机を見ると
普段なら枕の横にあるはずのゲーム機とスマホも机に置かれたままで静かに眠っている。
普段この時間であればゲームかスマホをしていて
もう早く寝なさいと声をかけているが、
あんなことがあってはゲームをする気にもなれなかったのだろう。
リビングに戻ろうとすると
足に何かが当った。
拾い上げるとそれは目覚まし時計だった。
さらによく床を見てみると単三電池が2本転がっている。
「悠太のやつ今日の朝に落としてそのままだな、まったく……。」
とつい声が少し漏れてしまった。
息子の悠太は本当におっちょこちょいだなと改めて思いながら目覚まし時計に電池を入れ、時間を合わせて枕の少し上の棚に置く。
そして出来るだけ静かに部屋を去る。
リビングに戻ると優子が机の上で頭を抱えたまま俺がまた戻ってくるのを待っていた。
「悠太は?」
という彼女の問いに
「もう眠ってたよ。ゲーム機もスマホも机に置いたまま……ありゃ、当分参ってるだろう。」
「そう………。」
とだけ彼女は答えた。
当分参っているのはこっちもか、
俺は椅子に腰かけながら彼女に声をかける。
「お前、少し焦りすぎてるんじゃないか?」
「たしかに今年に入ってから保護者会が忙しいのは分かってる。俺もパパ会に入ってるから色々な話を聞いているよ。」
俺は続けて、
「それに今日やっぱり塾で話を聞いたけど今からは、少々遅いんじゃないかな?」
と聞いてみる。
「塾の先生も言っていたけど仮に、今から塾を受けるとしても中学になって、授業にちゃんと付いていけるように復習をメインにした基礎能力を上げるコースならまだしも中学受験対策コースはさすがに厳しいんじゃないかな?」
正直今から中学受験はあまり現実的でないことは俺よりも妻の優子の方がわかっているだろう。
なんせ優子は俺と違って少中高大と全て私立に通っている。中々に良い家の出だ。
「確かに悠太は前回の全国学力調査テストでもかなりの高得点をとっていたしお前に似て成績優秀なのもわかるが中学受験はレベルが違うぞ?」
「そんなのわかってる、わかってるわよ」
頭を抱えたまま優子は答える。
「私も考えたの色々考えたの!その結果子供にはちゃんといいところには行ってもらいたいの!別に今の友達が悪いなんて思ってないし公立が絶対に嫌って訳じゃないの………」
「でも、それでもやっぱり私立と公立では子供達の意識の差が出るの!だから出来るだけ意識の高い子達に囲まれればあの子ももう少し落ち着くかなっておもって………。」
優子は段々と焦燥していっていたが、
「正直、自分が焦ってるのは分かってる!でも、私は…………。」
と再び熱を上げる。
ここは一旦落ち着かせないと行けない。
俺も優子少々、感情的になり過ぎている。
もっと現実的な視点から冷静に話しかけることにした。
「焦ってるのは、悠太も同じだろ?なんせ悠太と仲のいい大くんは今でもちゃんと塾に通ってるらしいじゃないか。」
「そうね。それがどうしたの?」
「となれば圭太くんを含めた三人で遊べるのは、今年が最後じゃないのかな?」
「だって大くんは中学受験するんだろう」
「そうなると少なくとも受験をしない圭太君と大君は離れ離れになる訳だ。そうなると自然と3人で遊ぶ機会は減っていくんじゃないのかな?」
と話してみる。
俺自身自分がそんなに勉強が出来た訳でもないのでこの手の話にはあまり強く言い返せないのだが、
それでも子供にとっては俺は勉強も大事だかその時の友達との思い出も大事だと考えている。
だから出来るならば息子の悠太にはあまり無理に勉強させる事はせずに伸び伸びと友達と遊んでいて欲しいと思っていた。まぁ少々伸び伸びさせ過ぎているのは流石に今回で少し感じたので、
「ただ今回に限らず俺も少々悠太に甘すぎたな。ちゃんと怒れなくてお前に嫌な役ばかりさせてしまってたよ。本当にごめんな。」
と謝った。正直な所俺も最近忙しくてあまり休日以外で悠太に構ってあげられてなかった。それ故にどうしても甘くなってしまう。悠太に対しての負い目のようなものがあり、あまり怒れずにいる。ただ今回のでその怒る役目を、叱る役目を妻である優子に押し付けすぎているように感じた。これは俺の責任だ。だから謝らねばならないと思ったのだ。
それに対して優子も
「それは仕方の無い事よ。貴方はよく構って気にかけてあげてる方だと私も思うわよ。」
「現にパパ会で色々なことを率先してやってくれてたって今日だってママ友との集まりで他のママ友達から貴方褒められてたし、それに私も言い過ぎたわ……。もう少し冷静になって話すべきだった。」
「ただ最近どうしても、色々考え込んじってね……。ごめんなさいね………。」
とあちらも謝ってきた。
そうだ僕らは夫婦なのだ。
お互いに支え合っていくのだ。
「ただ悠太のやつせっかくこれから夏休みなのにあんな落ち込んだままじゃあさすがに可哀想だな。」
「そうね明日は終業式だし、せっかくだから悠太の好きな春巻きにでも作ろうかしら。」
「おや、それは楽しみだなぁ。」
「でもあまりお互いに無理はしないように出来る範囲で頑張っていこう。」
「ふふふっそうね。」
と彼女もさっきと打って変わって笑顔で返してくれた。
そうやって僕らはまた明日も頑張ろうと意気込身をしたのだ。
話もまとまった頃、ふと机に目がつく。
「何だ?この手鏡?」
そこには見慣れない、やけに古そうな手鏡が机に置かれていた。
思わず手に取ってみる。
やや寂れた鏡に黒色で装飾の入った手鏡だ。
「それ今日のママ友とのランチで三橋さんの忘れ物なのよ。」
「三橋さんが座ってた所に置かれてたから来月の保護者会の時に渡そうと思って。」
「ふーん………そうか。」
と両面をみながらそうとだけ答えたが明らかに異質とも言える不気味さを俺は感じていた。
そうだこの時これを……
こんなものを窓の外へとさっさと投げ捨てれば良かった。
そうすれば、そうすれば、あんな目には会わずに済んだのに……。
今でも俺は後悔している。
あの時をあれを捨てなかった事に。
D2 Clarent of knight 英英一 @459unagi
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