トイレの神様、また明日

矢芝フルカ

トイレの神様、また明日

「使って良いですか?」

 って、聞かれたら

「どうぞお使い下さい」

 って、答えなきゃならない。


 私の生業は掃除のおばちゃん。

 毎日トイレを掃除している。


 聞いてくれる人は、まだ親切。

 黙って入って来る人もいる。


 だから、

「おはようございます」

 って声かけるけど、迷惑そうにされることも、しばしば。


 大丈夫よ、分かってる。

 あなたのスマイルは、お客様のためのものだもんね。



「トイレを綺麗にする人は、綺麗な子供に恵まれる」


 トイレにはそんな神様が居るらしい。


「だからね、トイレはフルカが掃除しなさい。将来、綺麗な子供に恵まれるようにね」


 母の一言で、実家のトイレ掃除は私の役目となる。

 新しい家に引っ越した時だ。

 私は中学2年生だった。


 それから結婚して実家を出るまで、ずっとトイレを掃除していた。

 結婚してからももちろん、トイレ掃除は私の役目。


 けれど私は、子供に恵まれなかった。


 子供が居ない人生も悪くはないけれど、子供が欲しくなかったわけじゃない。


 トイレの神様、どうしたの?

 綺麗な子供を恵んでくれるはずじゃなかったの?


 ううん、いいの。分かってる。

 神様だけのせいじゃない。



 結婚して専業主婦だったはずなのに、紆余曲折の七転八倒。

 気がつけば、掃除のおばちゃんになっていた。


 でも、この仕事が一番好き。

 だってこれは正義だから。

 誰かが汚した場所を綺麗にする。

 それは正義だと信じられるから。


 毎日毎日、便器に手を突っ込んで、下手すりゃ顔も突っ込んで、洗って拭くの繰り返し。

 汚れっぷりが酷い時もあるけど、洗えばスッキリ綺麗になる。



 トイレの神様お願いです。


 綺麗な子供には恵まれませんでした。


 だから私に、

 綺麗な物語を書く力を下さい。


 物語は私の子供だから。

 だから力を貸して下さい。



 トイレ掃除は体力勝負。

 歩きっぱなしの動きっぱなし。

 それでも拭けば綺麗になる。

 綺麗になれば、仕事は終わる。


 私の生業は掃除のおばちゃん。

 毎日トイレを掃除している。


 トイレの神様、また明日。

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