澱んでいた水と芽吹きが呼び覚ました風

夏休みが始まる前の短期間だけ帰国子女がクラスに参加することになり、普段にはないシチュエーションの当事者となった教師の視点で物語が進行します。

教師と帰国子女の少年、二人の対話を追う中で、教育現場で形骸化してしまっていたり、見落とされていることについても丁寧に掘り起こされているように感じました。

大切に思うあまり水をやり過ぎれば土が詰まり、水を吸い上げられずに根が腐ってしまいます。成長に必要なのは水を吸い上げ、それを発散すること。返せば、発散なくして水は吸い上げられません。

そのことを理論よりもずっと速く直観的に理解している少年が、大人が用意する鉢の中で埋もれもがいているのです。そのもどかしさに気づいた教師は、学習の基盤となる土壌を改良するとともに、少年の中に滞っていた水を大気へと放出する手ほどきをします。
そのささやかな時間は、ずっと締め切っていた教室の窓を久しぶりに開け放ったような開放感を感じさせてくれました。

ゆだるように暑かったこの夏、少年は屋外の草木のようにグイグイと枝葉を伸ばすことができたのでしょうか。

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