遠ざかりつつある昭和の時代を舞台に描く、悲しい社会派ミステリー。

1969年は、高度経済成長期の只中で、世界的にはアポロ11号が月面着陸に成功、国内では東大安田講堂事件が勃発した全共闘の時代だと言われています。
この物語は、まさにそのような「激動の昭和」を舞台に描かれる社会派ミステリーです。

証券会社に勤務する会津稔を殺害したらしき被疑者は、保科透子。彼女は凶器を携え警察へ出頭するものの、動機については黙秘し続けます。自首したにもかかわらず、いわゆる「完落ち」を頑として拒む背景には、いったい何があるのか?

まさに社会派ミステリーファンのツボを突くような舞台設定やストーリーラインで、そうした方向性の作品がお好きなら、思わず引き付けられてしまう内容でしょう。

しかし特筆すべきは、やはり作者様がまだ19歳だという事実ですね。
皆さんは、19歳の頃に社会派ミステリーを書こうと考えたことがありますか?
19歳の頃の私は、それこそ昭和を代表する社会派ミステリー作家・松本清張の小説が好きでしたが、まさか自分で書こうと考えたことはありませんでした。仮に書いていたとしても、正直19歳当時の自分にこちらの作品と同じ水準で書けたとは思えません。
ましてや自分が生まれるより前の時代の物語なんて! だいたい松本清張だってデビューしたのは41歳ですからね。

付け加えると、そんな若年作家さんのミステリーをガッツリ読み込み、アレコレ考察しておきながら犯行動機の真相をあえなく出し抜かれて、わりと赤っ恥をかいてしまったどうもオッサンの私です(白目)。
いや読み手目線として、言われてみると理由がすとんと腑に落ちつつ、なんでそこに気付かなかったんだと自己嫌悪したくなるのは良いミステリーの証拠ですよホント。

いずれにしろ硬質な物語と落ち着いた文体を、是非ご一読ください。きっと現代の若年世代の実力に驚かされるはずです。

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